2011年12月8日木曜日

書評 佐々木譲『暴雪圏』(新潮文庫)

 佐々木さんの北海道を舞台にした警官小説には、代表である北海道警シリーズをはじめ、いくつかある。本書はそのうちの川久保駐在さんシリーズだ。川久保シリーズの前作『制服捜査』が面白かったので、本書も期待大である。
 で、読んでみて、前作とは雰囲気が違うが、こちらも面白かった。

 北海道では、春のお彼岸の時期に「彼岸荒れ」といって猛烈な吹雪が吹き荒れることがあるそうだ。「爆弾低気圧」という言葉を聞けば、ピンとくる方もいるかもしれない。そんな春のお彼岸の時期の、帯広近郊の街が舞台である。
 序盤は、パラレルにいくつかのエピソードが語られる。不倫関係を精算したい主婦、会社の金の横領を企む男、義父との関係に悩み家出を決心する女子高生、観光旅行中の老夫婦、ペンションを営む若夫婦、そして暴力団組長の自宅を襲撃して現金を奪い、さらに殺人を犯して逃走中の強盗犯。これらの話が独立に、並行に進んでいく。
 そこへ暴雪が到来し、街は完全に機能不全に陥る。そして、並行に進んでいた物語が収束しはじめ、上記の人物たちが誘い込まれるように集まってくる。暴雪でまったく身動きが取れない状況で、それぞれの思惑を抱えた面々が同じ時を過ごす…というのが話の概要。

 前作の『制服捜査』が短編を連ねた連作集だったのに対し、本書は長編。設定も大がかりで、後半はハラハラドキドキの、緊張感溢れるストーリーが展開される。暴雪で身動きが取れないという状況を設定することにより、『そして誰もいなくなった』を連想させるような「陸の孤島」が北海道に出現する。佐々木さんの構想力に脱帽だ。スリルサスペンスが好みの方には、外せない一冊である。

 それにしても、12月に入って冷え込んできたところに本書を読んだので、寒さが10倍、いや100倍に感じられた。寒さが苦手な人は、春まで読むのを待つほうがよいかもしれない(半分は冗談です)。沢木さんの『凍』に匹敵する寒々小説だと独断しておく。
 夏に読めば節電になるかもしれないなぁ(ホンマか…)。

 ただ、多くの登場人物が一気に集まり、しかもありきたりの名前が多い(山口、平田、西田など)ので、「これは誰やったっけ?…」と前のページを読むことが何度かあった。袖や本文の頭に主要人物一覧をつけてほしかった。
 また、ストーリーはたいへん面白く、十分に堪能したのだが「川久保シリーズじゃなくてもよかったのでは…」とは思った。川久保シリーズの醍醐味は、駐在さんが地域の非警察官たちと協同して事件にあたるところにあると思う。そういう意味では、本書は必ずしも駐在さんが絡まなくてもよかったのではないかなあ…。揚げ足取りやな。



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