2013年4月18日木曜日

書評 白河三兎『プールの底に眠る』(講談社ノベルズ)

 心に傷を負った少年と少女の恋物語。
 ある夏、「僕」は自殺を図ろうとしていた少女と出会う。「イルカ」「セミ」と呼び合うことにした「僕たち」は恋に落ちていく。その恋愛の様子を描いた一週間と、13年後に「僕」が留置所に入れられている様子が並行して描かれる。

 決して甘酸っぱいだけの恋愛小説ではない。「僕」の一人称を通して、傷を負った者どうしの心の交流が伝わってくる。とはいえ重苦しさは全くなく、「イルカ」と「セミ」のやりとりは軽妙でさえある。
 ここに「イルカ」と幼なじみの曲利という少女も加わり、三角関係が形成されるのだが、ドロドロ感はまったくない。
 この3人の立ち位置ややりとりは、どことなく村上春樹氏の小説の雰囲気を感じさせる。

 また、なぜ「僕」は留置場にいるのかをはじめとする謎があり、ミステリーの要素も付け加えている。
 さりげなく随所に伏線がちりばめられており、それが最後にはきちんと回収されるところも見事である。「おお、そういえば」と、前のページに戻ることが多々あった。
 結末もよかった。

 主題はひと夏の恋なのだが、ミステリーの要素も含むなど、単なる恋愛小説に留まらない作品。完成度が高い。



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