2013年5月28日火曜日

書評 吉本佳生『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)

 経済学者の吉本氏が、アベノミクスに一定の理解を示しつつも、その欠点を指摘し、修正案を示した本。数々のデータをもとに、説得力のある論が展開される。

 先日、『アベノミクスの真実』という本を読んだ。アベノミクスがどういう理論で景気をよくしようと考えているか、たいへん分かりやすく説明した本であった。その書評で

一方、ちょっと説得力に欠けるなあと思ったのは「企業に資金が回る→従業員の給料が増える」の部分だ。ここが「ホンマかなあ…」と思ってしまう。

と書いたのだが、この疑問にズバッと答えてくれるのが本書である。
 吉本氏も、アベノミクスにより企業の業績は改善するだろうが、それが社員の賃金アップや庶民の暮らしの向上に結びつくのか、疑問を持っているようだ。そこで吉本氏は、アベノミクスの金融緩和が庶民の生活向上に結びつくような、さまざまな提案を行う。その主張の骨格は

「男・大・正・長」から「女・小・非・短」へ

というものだ。「男・大・正・長」は「男性・大企業・正社員・長い勤続年数」を、「女・小・非・短」は「女性・中小企業・非正規社員・短い勤続年数」を表す。「男・大・正・長」な人の給料を上げるよりも、「女・小・非・短」な人の時給を上げることが、景気の回復につながるというのだ。なぜなら「女・小・非・短」のほうが、増えた収入を消費に回す割合が高い(貯蓄する割合が少ない)からである。なるほど。

 そして「女・小・非・短」の収入増のための手段として
「金融緩和により市場に出た現金を、国内の不動産価格上昇につなげる(土地バブル発生はやむを得ない)」
「公共事業は都市部に集中させる(地方に資本を注入するのは無駄が多い)」
といった、乱暴ともとれるアイデアを提出する。
「そんなアホな」
と思うことなかれ。本書を読めば、決して荒唐無稽なアイデアではないことが分かるだろう。

 また本書によると、日本は賃金格差が大きい国なのだそうだ。これは驚いた。日本といえば「国民総中流」という言葉もあるくらいで、貧富の差の少ない国だと思っていたのだが、バブル以降はそうではなくなってしまったというのだ。むむぅ。
 さらに、所得再分配の前よりも後のほうが、子どもの貧困率はアップするのだという。要するに、税金を再分配するとき、子どものいる家庭にとっては、とられた分よりも戻ってくる分のほうが少ないというわけだ。こんなアホな状態になっているのは、先進国では日本だけらしい。
 じゃあどこにたくさん再分配されているのかというと、言わずもがな、高齢者である。どうも日本は、福祉というと老人に目がいきがちで、なかなか子どもにお金が回ってこない。子育て世帯であるわが家としては、この状態は早急に改善してもらいたい。
 などなど、いろいろ勉強になった。

 ただ、経済学というのはどうしても机上の空論にならざるを得ないところがあるので、本書の主張が本当に正しいのかどうかは誰にも分からない。とはいえこれは、アベノミクスにしろ、反アベノミクスにしろ、すべての経済政策に言えることだ。
 どういう案を支持するのかは、各人が考えるしかないということなのだろう。



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