2013年8月19日月曜日

書評 井村雅代『教える力 私はなぜ中国チームのコーチになったのか』(新潮社)

 シンクロ全日本代表チームの元コーチである井村雅代氏が、自らの半生を振り返りつつ、その生き様を語った本。「本気で生きている人」の言葉が心に響く。

 シンクロナイズドスイミングが1984年にオリンピックの正式競技となってから、日本は6大会連続で五輪のメダルを獲得した。その間の、日本の指導者の中心が井村氏であった。そう、あの大阪弁のオバハンである。
 2004年に井村氏が日本代表コーチを退任してから、日本のシンクロがめっきり弱くなったのは周知の通り。北京五輪では何とかメダルをとったものの、ロンドン五輪ではついにメダルなしに終わり、その凋落ぶりが明らかになった。
 一方、井村氏は北京、ロンドンの両大会では中国代表のヘッドコーチとして、輝かしい実績を残した。井村氏自身は、8大会連続でコーチとしてメダルを獲得したというわけだ。すごい。

 この井村氏のコーチ力の秘訣が書かれたのが本書である。井村氏はどういう信念の基でどういう指導を行っているのかが、包み隠さず書かれている。
 また、日本がメダルを逃して中国がメダルを獲得したことにより、「裏切り者」呼ばわりされていることへの反論なども赤裸々に語られている。

 井村氏の指導法は、時代遅れともいえる「超スパルタ」だ。とにかく練習させ、選手をトコトンまで追い込む。ほとんど「虐待一歩前」状態である。
 しかし、選手たちは井村氏についていく。奥野、立花、武田らの名選手をはじめ、中国の選手たちも井村氏に心酔し、スパルタに耐えて力をつけていった。なぜ選手たちはこの鬼コーチについていくのか。それはおそらく、井村氏が本気で生きている人だからだろう。自分に厳しく、目標に向かって本気で邁進していく人だからこそ、選手たちもついていくのだ。そこが、同じスパルタでも、柔道などとの違いなのだろう。

 私も中学・高校時代はスポーツをしていたのだが、ここまで本気の指導者には出会わなかった。
「もし出会っていたら、人生が変わっていたかも」
と思う一方で、ついていけずに脱落していた可能性も高い。井村氏の指導を受けてみたいようなみたくないような…。とにかく、生半可な覚悟ではついていけないことだけは確かである。
「大阪の本気のオバハン」の生き様は、一読の価値ありだ。



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