2015年7月21日火曜日

【書評】松井今朝子『仲蔵狂乱』(講談社文庫)

 中村仲蔵という実在の歌舞伎役者の一生を描いた小説。歌舞伎界の土台が作られていた江戸中期を舞台に、市川團十郎、中村勘三郎、尾上菊五郎など、歌舞伎役者のビッグネームの初代や二代目などが登場して物語に色を添える。とはいえ歌舞伎の知識は不要。
「海老蔵の親父が團十郎なんだよね」
程度を知っていれば十分に楽しめる一冊だ。

 歌舞伎界で最も重要なのは血筋。それは今も黎明期も変わらないようだ。そんな世界の中で、血統的にはなんの後ろ盾もない中村仲蔵という役者が奮闘を繰り広げる。稽古と工夫を重ねることで人気を得ていき、ついには座長にまで登り詰める様子が熱く描かれる。

 読んでいるときは、実在の人物なのか架空の人物なのか知らなかったのだが、いま調べてみると、実在の人物どころか中村仲蔵という名跡は今でも続いており、その初代なのだそうだ。また、落語の演目になるほど人気があるらしい。
「そんなことも知らずに読んでいたのか…」
と思わなくもないが、それでも楽しめるほどよく書けた小説ということにしておきたい。
 競馬もそうだが、良血ばかりでは面白くない。いや、血統的にはたいしたことがない馬のほうが、むしろ人気があったりするものだ。そういう面での人気もあった役者さんなのだろう。




にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

0 件のコメント:

コメントを投稿

【読書メモ】川島誠『800』(角川文庫)

 陸上競技をテーマにした作品はたくさんあるが、Two Lap Runnerを主人公に据えたものは珍しい。Two Lap Runnerとは、トラックを2周するランナー、すなわち800 mの陸上選手のことだ。  2人のTwo Lap Runnersが主人公。1人は湘南の海辺に住む、...