2016年8月29日月曜日

【書評】宮部みゆき『長い長い殺人』(光文社文庫)

「財布」とは目の付け所がさすが


 1992年に単行本化された連作長編ミステリー。
 ある不倫カップルがお互いの正式な配偶者を殺害し、多額の保険金を得たと疑いをかけられる。その事件に関係する10人の「財布」が語り部となって物語が進むところが斬新。財布という、寝ているとき以外はほぼ持ち主と行動を共にする相棒を一人称に据えるとは目の付け所がいい。
 事件が社会に与える影響がリアルに描かれるところが宮部流。後の『模倣犯』などにつながる、ピリピリしたどす黒い緊張感が物語の空気を形作っている。
 社会派ミステリーの王道をいきながらも、斬新な設定で新しい道を切り開くのが、さすが宮部氏。動機の面でやや弱い感じがしたが、それも些細なことに思わせる名作。

《あらすじ》
 殺人事件の動機は明確。殺害方法の操作が進むが、なかなか黒と断定されない不倫カップル。そこに決定的な目撃証言が出てきて、事件は意外な方向に。彼らは白だったのだろうか…。



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