東京は本郷の、とある大学の理系(化学系)研究室を舞台にした作品である。ケミストリーとミステリーが見事に融合された、「ケミステリー」とでも呼びたくなる好著。
『ラブ・ケミストリー』に続く、喜多氏のデビュー第2作は、前作と同じく東大農学部が舞台。ただ、第1作とは独立に読める作品だ。
基本的な構成は第1作と同じで、奇想天外な展開が軸にあり、そこへ化学系の理系人たちの生態を絡めたものになっている。
今回、軸となっているのは、魂と肉体が入れ替わるという、よくあるパターンだ。ただ、本書が変わっているのは、ある二人の間で魂と肉体が交換されるのではなく
男子大学院生(明斗)→女子大学院生(スバル)→猫
というように、玉突き式に魂が入れ替わる点である。明斗の魂がスバルに、スバルの魂が猫に移ってしまうのだ。猫が混ざる点が笑える。
元に戻る方法を探る明斗とスバル。しかしその過程で、研究室の誰かが危険な化合物を合成しているという事実をかぎつける。典型的なオタク理系人である明斗(肉体はスバル)と、今どきの女子であるスバル(肉体は猫)の名コンビにより、徐々に明らかになる犯人の手法と狙い。果たして二人は、犯人を突き止め、さらには元の体に戻ることができるのか。
理系ラボの様子を鮮やかに描きつつ、読者をグイグイと引き込んでいく筆力は秀逸である。前作は「ケミストリー(理系人の様子)」と「ミステリー(謎解き)」がほぼ独立していたのがちょっと残念だったが、本作ではこの二つが見事に融合している。ミステリーの解明に、ケミストリー(化学)が大きなカギを握っているのだ。偉そうだが
「腕を上げたなあ」
と言いたくなる。ケミストリーの現場を熟知している喜多氏にしか書けない作品だろう。
これまで、小説に出てくる科学者というと、数学者や物理学者(ガリレオ湯川も物理学者だ)がほとんどで、化学者はどうも旗色が悪かった。化学物質、化学兵器など、化学という言葉も、どこかイメージが悪い。
そんな現状を覆すべく、喜多氏にはこれからも上質の「ケミステリー」を書いていってもらいたい。
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