2014年10月29日水曜日

書評 朝井まかて『先生のお庭番』(徳間文庫)

ほんわか人情小説と思わせておいて…。ニクい。


 舞台は江戸時代の長崎、出島。鎖国の世にあって、外国人の活動が許された人工島だ。タイトルの「先生」とはシーボルトのこと。そのシーボルトの館の庭師として仕えることになった熊吉が主人公である。

 物語はシーボルトと熊吉の出会いから始まる。下働きとして恵まれない生活を送っていた熊吉が、気むずかしくも優しいシーボルトと、遊女上がりの奥方と出会い、関係を紡いでゆく。
 ビクビクしつつも懸命に働き、「先生」や奥方に認められ、人生を切り開く熊吉。出島の人たちと熊吉の暖かい交流の様子に心が和む。
「なるほど、ほんわかした、よい話だなあ」
と浸っていたのだが、後半は一転、怒濤のような展開に。あれよあれよという間に読み終えてしまった。朝井氏の小説は初めてだったこともあり、見事にしてやられた。

 とはいえその本質は人情小説であることに変わりはない。人情とは、ほんわかしたものだけではない、ということなのかもしれない。



2014年10月28日火曜日

書評 森繁和『参謀』(講談社)

落合ドラゴンズの懐刀が、選手育成法、人の育て方の極意を語る。


 落合監督がチームを率いた8年間で、ドラゴンズは何と4回の優勝を飾っている(すごい!)。しかも、残りの4年間も全てAクラス。この超黄金時代をコーチとして支えたのが森氏である。投手コーチ、バッテリーコーチ、ヘッドコーチを歴任し、落合監督の懐刀として政権を支えた。
 その名コーチが選手の育て方、すなわち人の育て方を語ったのが本書である。

 とはいえ、そこには「目から鱗」の指導法が書かれているわけではない。森氏の指導の基本は
「自分で考えられる選手を育てる」
ことに尽きる。
「そんなん当たり前やん」
と思う事なかれ。私も現在子育て中なのだが「自分で考えられる」ように育てることがいかに難しいか実感している。ついつい、あれこれ指図してしまうのだ。子育て経験者には共通の悩みではないだろうか。
 しかし森氏はこれを徹底する。もちろん
「それができない選手は去っていくのみ」
というところが子育てとは違うのだが、それでもなかなかできるものではない。人を育てるにあたっての心構えを教えてもらった。

 その他にも、完全試合目前の山井投手交代の真相や、吉見、浅尾をはじめ、大野など、前評判がそれほど高くなかった選手が次々と台頭する理由、ドミニカの格安選手たちが活躍するわけ、アラ・イバのコンバートの目的など、常勝ドラゴンズの秘密が次々に開示される。プロ野球ファンには垂涎の一冊だ。

 興味深かったのは、落合監督と森氏は、ドラゴンズ以前には接点がほとんどなかったことだ。森氏は西武、ロッテ、日ハム、横浜のコーチを歴任したのだが、目を見張るような実績を上げてきた訳ではない。
 この両者を引き合わせたのは「球界の寝業師」と言われた根本氏だったそうだ。根本氏のもくろみ通り、森氏は落合監督の下で、名参謀としての評価を確立した。森氏が多くの投手を育てたように、落合監督が森氏の能力を存分に引き出したのだ。
 落合監督が森氏をどのように扱って能力を引き出したのかも、随所に書かれている。中間管理職であるコーチをどのように使えば組織が活性化するかがよく分かった。ボスにあたる社長・部長にもおおいに参考になるだろう。しかし私はそのような立場にないので、それを生かせないのが残念だ…。




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2014年10月27日月曜日

書評 小川一水『コロロギ岳から木星トロヤへ』(早川書房)

SFとしての舞台設定が秀逸。SFの入門書にお勧め。


「まさにSF」であり、かつ「SFに慣れていない人にも読みやすい」。この両立不可能と思える二つのことが実現されている小説だ。
 SFというからには、まずSF的な舞台・世界を設定する必要がある。「宇宙人が来た」なんてのが分かりやすい例だ。この舞台設定で、その作品の面白さの大半が決まってしまうと言ってもよいかもしれない。設定された舞台に入り込めないSFほど、読んで苦痛な本はないだろう。

 小川氏の小説は『太陽の簒奪者』に続いて二作目だったのだが、両作品とも舞台設定はSFの王道である。「宇宙から未知の生物がやってくる」というのが、その共通点だ。まさにSF的な舞台設定であるといえよう。
 SFに馴染めない人は
「そんな、あり得ない舞台を設定されてもねえ…」
という拒否反応を示すのだろうが、小川氏の手にかかると、そういう舞台についつい入り込んでしまう。ラノベ的な要素も持った軽い語り口で、スルスルと読めてしまうのだ。

 ソフトに読めるハードSFとでも言えばよいのだろうか。いまの時代にとてもよくマッチした書き手である。SFの世界への入り口に、ぜひお勧めしたい作家であり作品。

追記:『太陽の簒奪者』は小川氏ではなく野尻抱介氏の著作でした。すみません。小川氏の作品は『第六大陸』に続く二作目でした。記憶力の低下を激しく感じます…。




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2014年10月26日日曜日

【予想の回顧】菊花賞、富士S、室町S(2014)

 今週は菊花賞。
 本命◎ワンアンドオンリーは少し押して好位を取りに行った。それほどかかっているようには見えなかったので、シメシメの展開だ。そのまま最終4コーナーまではジッと我慢して、直線入り口まで持ったまま。「勝った」と確信したのだが、いざ追い出すとジリジリになり、最後は馬群に飲み込まれて9着。外枠があだになり力んだのか、それとも距離の壁か。ノリ騎手はうまく乗ったように見えたのだが…。
 勝ったのはトーホウジャッカル。デビューからの最短日数での菊花賞勝利となった。2着にサウンズオブアースが入り、内枠の2頭が上位を占めた。トーホウジャッカルには、菊花賞馬としてぜひ今後も強い競馬を見せてほしい。

 土曜は東京で富士S。
 本命◎ブレイズアトレイルは後方から。レースは前半3ハロンが35.6秒のスローペースになったわりには差しが決まったのだが、この馬の出番はなかった。展開は向いたように見えたのだが、どうしたのだろう。
 勝ったのは3歳馬のステファノス。今年の3歳馬はレベルが高いかもしれない。

 京都の室町Sは◎エイシンゴージャスが軽快に逃げたが直線入り口ではすでに手応えが怪しく、11着に惨敗。

 今週は3戦3敗で本命馬がすべて惨敗。ここまで大ハズレだと諦めもつくような、散々の結果だった。

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2014年10月25日土曜日

【予想と与太話】菊花賞(2014)~荒れる時代は終わった~

 いよいよ今週は菊花賞。京都の誇る二大長距離GIレースの一つだ。ダービーや有馬記念も盛り上がるが、関西在住の私としては、天皇賞・春とともに大好きなレースである。

 JRAのCMで取り上げられたのはマンハッタンカフェ。夏の登り馬でセントライト記念4着から菊花賞を制した。2着に逃げた人気薄のマイネルデスポットが残り、大荒れの結果となったのだった。この頃から、菊花賞が荒れ出したのだと思う。
 また、セントライト記念をステップに菊花賞を勝ったのは、この馬が最後らしい。今年のセントライト記念組はどうだろうか。

 レースにいってみたい。
 ダービー馬の◎ワンアンドオンリーが抜けた人気になりそうだが、皐月賞馬不在、これといった登り馬もいないとなれば、それも納得。ここ4年連続で1番人気馬が連対し、ここ3年は神戸新聞杯優勝馬が1番人気となって本番も制している。荒れる菊花賞の時代は終わったと解釈したい。この馬が本命。
 となると相手は絞りたい。ダービーで掲示板を外した馬は消す。怖い馬もいるが、仕方がない。というわけで内から順にトーホウジャッカル、ゴールドアクター、タガノグランパ、トゥザワールドを押さえる。推奨穴馬には、この中からタガノグランパを推しておく。ダービー4着、(今年はハイレベルだったかもしれない)セントライト記念3着のわりには人気がない。
 8枠に入った神戸新聞杯4、5着馬がちょっと怖い。

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2014年10月24日金曜日

【予想と与太話】富士S、室町S(2014)~いつも人気の盲点~

 朝晩は肌寒いくらいで、もうすっかり秋だ。息子は本日、秋の遠足で動物園に行ったらしい。

 そんな土曜は東京で富士Sが、京都で室町Sが行われる。
 室町Sの室町は、室町時代の室町なのか、それとも室町通りの室町なのか。ふと疑問に思ったので、いつものようにJRAの特別レース名解説に教えてもらった。

室町は、京都市中央部を南北に通じる通り。北は北山通から南は久世橋通までを指す。三条通りとの交差点付近は交通の便がよく、西陣にも近いことから繊維問屋が集中している。今出川通の北側には、「花の御所」と呼ばれた室町幕府が置かれた。

ということで、正解は室町通りの室町だった。烏丸Sや北大路特別と同じ、京都の通りの名前シリーズの一つだったらしい。
 十数年前、2年間ほど室町通り沿いに住んでいたことがある。昔ほどではないのだろうが、それでも呉服屋さんがたくさんあった。JRAの解説にもあるように、繊維関連の店が連なる通りなのだ。とはいえ、それらのお店には一度もお世話になったことはない。そりゃ、和服屋が少なくなっていくわけだ…。

 レースにいってみたい。
 ダートオープン特別のハンデ戦。古馬の牡馬と3歳牝馬の一騎打ちの様相。本命は3歳牝馬の◎エイシンゴージャス。ここまでの成績が4-1-0-0で、ダート1200 mは負けなしの4連勝中。昇級戦でもあり、ハンデは52 kgと恵まれた。ここは通過点。
 相手も人気だがナガラオリオンは押さえざるをえないか。
 推奨穴馬はサマリーズ。走るときと走らないときが極端な馬。前走は度外視できる。

 富士Sは◎ブレイズアトレイルが本命。前走でお世話になったこの馬を引き続き本命に推す。何度好走しても人気にならない馬がたまにいるが、この馬がまさにそれ。

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2014年10月23日木曜日

書評 マイケル・サンデル『これから「正義」の話をしよう』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

「白熱教室」がなぜ人気なのか。さらに知りたくなった。


 数年前に話題になった「白熱教室」のマイケル・サンデル先生。そのサンデル氏が自らの考えを綴ったのが本書。あの「白熱教室」の根底にある考え方が披露されているのだろうと、おおいに期待して読んだのだが…ちょっと期待はずれだった。

 本書では、サンデル氏の「道徳」に対する考えが述べられている。何をもって「正義」とするべきなのかが書かれている。
 たとえば、サンデル氏はこんな問いを投げかける。
「ここであなたが人を突き飛ばして電車を止めたら、大勢の命が救われるとする。さてあなたは、その人を突き飛ばすべきなのか」
こういう状況で、人を突き飛ばすのが正義なのか、それとも突き飛ばさないのが正義なのか。こんな感じで問いを立てつつ「正義」についての考察を深めていく。

 このように書くと、とても興味深いし、実際に「白熱教室」は非常にエキサイティングなのだろうが、本書ではその興奮を感じ取ることができなかった。
 まず、難しいのだ。原文が難しいのか、それとも訳文がよくないのかは判断できないが、とにかく内容が頭に入ってこない。私がこの分野(道徳、哲学)に疎いことを差し引いても、十分に難しいと思う。「難解」というよりも「分かりにくい」のだ。

 テレビで白熱教室を見てから本書を読んだらまた違う感想をもったのかもしれないなあ。サンデル氏の考えを知るのに、まず本書から始めるのはお勧めできない。
 書くことが得意な人と、話す(講義)のが得意な人がいるということなのかもしれない。




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【読書メモ】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)

 2020年のベストセラーをようやく読んだ。もっと早く読んでおくべきだった…。   スマホがどれだけ脳をハックしているかを、エビデンスと人類進化の観点から裏付けて分かりやすく解説。これは説得力がある。   スマホを持っている人は、必ず読んでおくべきだ。とくに、子どもを持っている人...