2012年6月19日火曜日

書評 芥川龍之介『羅生門・鼻』(新潮文庫)

 私は「古典」と呼ばれる小説はどうも苦手なのだが
「そういえば、芥川先生の本はチャレンジしたことがなかったなあ」
ということに気づき、おそらく高校の国語の教科書で触れて以来となる芥川小説を読んでみた。
 結論から言うと、思いのほか面白かった。日本文学史上に残る芥川先生をして「思いのほか」などとは不遜もいいところだが、率直な思いである。ようやく、こういう小説の面白さが分かるようになってきたのか、それとも食わず嫌いだったのか。

 本書は、中世を舞台にした小説を集めた短編集。なので、それが書かれた時代(昭和初期)の世相と、中世の時代背景をある程度は知らないと、その真髄は分からないのかもしれないが、私なりに楽しめた。
 前提知識はそれほど必要なく、普遍的な面白さが散りばめられているということなのだろう。京都が舞台だということも、私にとっては読みやすかった要因の一つだと思う。

 前述のように、芥川小説は学校の教科書でチラチラ読んだ程度なので、漠然とした印象しかもっていなかった。今回、改めて読んでみて感じた印象は
「なかなかシュールやなあ」
というところだ。仏教の思想に裏打ちされた、ちょっとシニカルで「無常」なストーリーが展開される。
「ちょっと死んでみます」
と言って自殺してしまった芥川さんの世界観が、少し見えた気がした。

 しかし「邪宗門」が未完だったとは、ズッこけた。
「いったい、この後どうなるのだろう(ワクワク)」
というところで、終わってしまう。芥川先生の頭の中では、ストーリーの骨子はできていたのだろうか。そうではなく、ちょっと話の収拾がつかなくなってしまった感じがしないでもない。




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