デザインの本ではなく、デザインの心理学の本だ。心理学について予備知識があると、理解しやすいだろう。
まず断っておきたいのが、本書の「デザイン」という言葉の定義だ。
本書では「デザインとは、人間が生きていく中で、目の前にある世界をなんらかの目的を持って手を加えて変化させること。あるいは、自分を取り巻く世界を変化させる工夫のこと」と、デザインという言葉を定義している。
だから、「デザイナー」とか「車のデザイン」などからイメージされる「デザイン」という言葉を想定していると、肩すかしを食らうことになる。
本書では「人が手を加える」行為を、すべて「デザイン」としているので、人工物はすべて「デザインされたモノ」となるわけだ。「人生をデザインする」などと言う場合の「デザイン」に近い意味だと思えばよいだろう。
前半では、人が人工物に愛着や魅力を感じる理由が語られる。
人がどのような理由・過程で人工物に魅力を感じるか、その理由がが認知心理学の観点から解き明かされる。
本書で強調されるのは「意味」だ。愛着を感じる理由は、モノの値段や社会的価値ではなく、そのモノの持つ意味らしい。言い換えれば、そのモノと自分の過ごした歴史が愛着につながるというのだ。
なるほど、我が身を振り返ってもたしかにそうだ。愛着のあるモノは、高価なものよりもむしろ安物のほうが多い気がする(単に金がないだけかも)。
後半は、デザインを扱う学問について書かれている。デザインされたモノ(人工物)の消費者やデザインの現場の人が、デザイン学とどのようにかかわるかが述べられる、
興味深かったのは、デザインの現場の主人公(であると、われわれが感じている)デザイナーは、われわれが思っているほどアーティスト(美術系)ではないということだ。
デザインにはさまざまな制約があり、デザイナーはそれらの制約を満たすように、モノをデザインしなければならない。クリエイティブな職業ではあるが、われわれが思っているほど、アーティスティックな作業ではないらしい。デザイナーはアーティストではないということは、デザイナーを志す人は知っておくべきだろう。
ただ(私が心理学にあまり通じていない、という事情もあるのだろうが)本書はちょっと難しかった。内容がすいすいと頭に入ってこない。書籍全体としても、部分部分にしても、スッと理解しづらいところが多かった。
また、オビには「なぜ、これを買ってしまうのか―その理由は「デザイン」にあった!」とあるが、そのようなことは書かれていなかったように思う。
装丁やレイアウトなど、本の作りは素晴らしかった。勉強になりました。
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