2012年5月4日金曜日

書評 米長邦雄『われ敗れたり』(中央公論社)

 往年の名棋士であり、現在の日本将棋連盟会長である米長さんが、いま最強の将棋ソフトである「ボンクラーズ」と対局した過程を振り返って著した一冊。
 この対局についてあまりご存じない方のために、まずはこの対局の意味を簡単に説明しておきたい。

 将棋ソフトの存在はみなさんご存じだろう。ひと昔前までは、アマチュアレベルでも物足りないようなレベルでしかなく、将棋を覚え立ての素人が暇つぶしにやる程度のものだった。
 しかし、この10年ほどのレベルアップには驚くべきものがあり、ついにはプロのレベルに迫ってきた。ハード/ソフト両方のレベルが向上し、さらにその相乗効果もあったのだろう。将棋のルールを知っている人は、試しに1000円のソフトを買って対局してみてほしい。日常的に将棋を指している人でなければ、おそらくコテンパンにやられてしまうだろう。

 そこで将棋連盟会長である米長さんは、プロとコンピュータが公式の場で無断で対局することを禁止した。コンピュータと棋士の対局も、将棋連盟の管轄下においたわけである。そこにはいろいろな思惑があっただろうが、私が勝手に想像するところでは
「人間vs人間とは全く違う戦いになる」
という考えがあったのだろうと思う。

 そして、ここが米長さんの面白いところ(ちょっと策を弄しすぎな感もあるが)なのだが、自分がコンピュータと対局する方向へ話を持っていく。そこから、対局へ至るまでの日々、および対局そのものを振り返ったのが本書というわけだ。
 前置きが長くなってしまったが、本書の背景は理解していただけただろうか。

 本書を読んで感じたことをひと言で表すなら「人とコンピュータの対局は、新しい文化を生み出すだろう」ということだ。
「コンピュータを相手に人間が将棋を指しても、無機質な戦いにしかならないんじゃないの?」
と感じる人も多いだろうが、おそらくそれは間違いだ。何がどう間違っているのか、それが書いてあるのが本書である。それを示している部分を一つ引用しておこう。

 実はこのコラム(週刊誌の記事)を書くに先立って、私(米長さん)は羽生善治に会い、コンピュータ将棋についてどう考えているか、話を聞きました。もしも、どうしてもコンピュータと対局しなければならないとしたら、どういう条件で、どのように準備をするのか。そう尋ねると羽生は、
「もしもコンピュータとどうしても戦わなければならないとすれば、私はまず、人間と戦うすべての棋戦を欠場します。そして、一年かけて、対戦相手であるコンピュータを研究し、対策を立てます。自分なりにやるべきことをやったうえで、対戦したいと思います」

というわけだ。相手がコンピュータであろうと人間であろうと、対策を練り、準備を整え、精神を集中してそれと戦うところには、必ずや新しい何かが生まれるはずだ。それは文化の一つなのだと私は思う。
 今回、コンピュータに対して研究を重ね、ある意味、人生をかけて対局したのが米長さんである。そのドラマが面白くないわけがない。将棋やコンピュータに興味がない方でも楽しめる本だと思う。

 最後に、コンピュータvs人間の将棋の対局について、私見を述べておきたい。
 ほぼ間違いなく、近いうちに人間はコンピュータに勝てなくなるだろう。オセロやチェスと同様の未知を同様の道をたどるというわけだ。しかしこれは「コンピュータの勝ち」と言い切るべきものではない。なぜなら現状は、「コンピュータvs人間」というよりも「コンピュータと人間の合同チームvs人間」という図式になっているからだ。コンピュータソフトは、人間が作り出してきた過去の歴史である膨大な棋譜をインプットし、人間の差し方を分析・学習し、そのうえで次の一手を考え出している。いわば、人間のやり方を模倣して思考しているのだ。言い方を変えれば、まだまだソフトの開発者の棋力によるところが大きいといえるのではないか。
 本当にコンピュータが人間に勝ったと言えるのは、たとえば将棋の「ルールだけ」をコンピュータに教え、そこから差し手を考えるようなソフトが人間に勝ったときではないだろうか。それが実現するのがいつになるのかは想像もつかないが、そのときはいまの定石とはまったく違った展開の対局が行われるだろう。それはそれで、ワクワクする未来である。



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2012年5月2日水曜日

息子が2歳になった おめでとう

 先日、息子が2歳の誕生日を迎えた。上の娘(4歳半)が2歳になったときは、それまでの2年間がえらく長く感じたものだが、今回は違った。
「え、お前、もう2歳? ウソやろ~」
てな感じである。ほんとにあっという間だった。子どもが二人いると、4倍慌ただしいですな。
 親がちょっとでも見えなくなるとピーピー泣いたり、保育所の一時保育に預けられてはワンワン泣いたり(給食は、しっかりおかわりするんだけど)していたのもなくなり、ずいぶんとお兄ちゃんになってきた。夜もお姉ちゃんと二人でネンネしてくれて、お母さんもお父さんも助かってるぞ。残る課題は夜泣きやなあ。早く克服しよう。

 誕生日当日は、お父さん(私のこと)とお姉ちゃんで作った抹茶シフォンケーキでお祝いをした。写真で見るとあまり美味しそうに見えないが、けっこう上手にできた。


 これからも元気に育っていってください。

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2012年5月1日火曜日

2012天皇賞(春)、下鴨S、青葉賞 予想の回顧

 土曜の京都メインは下鴨S。
 本命◎シースナイプはポンとゲートを出たが、1コーナーで揉まれるようなかたちになり、少し位置取りを下げた。いまの京都の馬場を考えると、これが痛かったかもしれない。中団からレースを進めるが、直線もたいして伸びず、6着まで。
 青葉賞は◎サカジロオーが完敗の14着。穴を狙っての結果だったので「こういうこともあるさ」と流しておきたい。

 日曜は天皇賞(春)。◎オルフェーヴルはご存じの通り不発に終わり、まさかの11着。これだから競馬は分からない。前走後の調教再審査でリズムが狂ったのだと思う。その狂ったリズムが元に戻るのか、それとも狂ったまま終わってしまうのか。次走がどこになるかは現時点では未定だが、大いに注目のレースとなりそうだ。
 勝ったのはビートブラックイングランディーレが逃げ切ったレースを思い起こさせる展開だった。2番手につけた馬(ビート)とハナを切った馬(ディーレ)の違いはあるが、集団馬群を大きく引き離してレースを進め、その馬群が硬直状態に陥っているのを尻目に、3コーナーから果敢に仕掛けて直線ではセーフティリードという展開はまったく同じ。大穴を開けた。気楽な立場だったとはいえ、石橋脩騎手のファインプレーだと賛辞を送りたい。
 こういう展開になったとき、結果的には、その原因は集団馬群を引っ張る立場の馬にあるらしい(ブエナビスタが3着に敗れて大波乱となった女王杯もそうだった)。今回で言うと、ユニバーサルバンクトウカイトリックあたりが追いかけるべきだったのだろうが、これらも人気薄だし、それを望むのは酷か。トーセンジョーダンギュスターヴクライが勇気を持って仕掛けていれば違った展開になったのだろうが、後ろのオルフェーヴルを意識すると、それもできなかったか。まさに「ハマった」レースだった。

 ビートブラックは菊花賞で本命に推した馬なのだが、近走は重賞で掲示板に載るのがやっとの成績。今回は馬券の対象外だった。
 こういう、何回買っても獲れそうにないレースはサッサと忘れて来週に向かうとしよう(反省せんのか)


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2012年4月28日土曜日

2012天皇賞(春) オレの予想を聞いてくれよ

 今週は家族旅行中なのでごく簡単に。しかし、旅行中にも簡単にネットに接続できてブログが更新できるんだから、便利な世の中だよなあ。

 今週は天皇賞(春)。ご存じ、古馬の長距離チャンピオン決定戦だ。しかし近年はここを回避する一流馬も多く、寂しい限りである(昨年もブエナビスタがこのレースはパスだった)。それに伴いレースも荒れ気味だが、今年はどうだろうか。

 いまJRAのCMでは、ライスシャワーが勝ったときの映像が流れている。私が「天皇賞(春)」と聞いて真っ先に思い浮かべるのもやはりライスシャワーだ(もう一頭はマックイーン)。宝塚記念で予後不良になってしまったのが本当に残念だ。リアルシャダイの父系をつないでいってほしかったなあ。

 今年のレースには、チャンピオンホースが登場。その時代で一番強い馬が阪神大賞典→天皇賞(春)というローテーションを組むのはディープインパクト以来か。
 そのチャンピオンホースとは、もちろん◎オルフェーヴル。前走はトンデモハップンなレースで驚かせてくれたが、めったにないからこそトンデモハップンなわけで、2回続けてああいうことはあるまい。忘れた頃にまた何かやらかすのかもしれないが、今回は普通に走って普通に勝つだろう。本命はこの馬。
 ◎が大本命馬なので相手は絞りたい。今の京都は極端に前が残るので、相手は前に行ける馬、すなわちギュスターヴクライトーセンジョーダン。この2頭を厚く押さえる。気持ちは8-18、16-18の2点勝負だが、近年の天皇賞は荒れ気味ということもあり、推奨穴馬も挙げておく。
 一頭目はナムラクレセント。前残りの馬場で、あれよあれよというシーンがないか。もう一頭はローズキングダム。実力馬が前走で復活の兆しを見せた。燃え尽きていなければ、激走があるかも。

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2012年4月27日金曜日

2012下鴨S、青葉賞 オレの予想を聞いてくれよ

 今週はGWで天皇賞。家族旅行に行く予定なのでライブでは見られそうにないが、天皇賞と聞くと、春が終わって初夏を感じる。田植えの季節ですな。

 その天皇賞の前日、土曜の京都メインは下鴨ステークス。
 下鴨とは京都の地名で、下鴨神社を中心とする地域のことである。岡崎と並ぶ京都の高級住宅街で、大きなお屋敷が並んでいるところもある。閑静でよい場所だ。京都へお越しの際には、下鴨神社を訪れ、周辺を散策するのもお薦めである。

 さてレースの予想にいってみたい。先週の京都は、年初の開催と同様、極端な前残りの馬場だった。天気もよいし、その傾向が急に変わるとは思えない。芝の内回りのレースは前に行く馬を狙うに限る。
 というわけで、本命は◎シースナイプ。僅差のレースを続ける堅実派だが、裏を返せばあと一押しが足りない。ここは馬場と枠順を味方に、あと一押しを期待したい。
 推奨穴馬も内枠の前に行く馬から、ワンダームシャ。休み明けで評価を下げているが、休養前は差のない競馬をしていた馬だ。スイスイと逃げられれば面白い。

 青葉賞は、オープン実績のない馬がほとんどで、1勝馬も多く、混沌としている。荒れる傾向のあるレースだし、穴を狙いたい。
 本命は◎サカジロオー。スローペースとはいえ、前走は中山で上がり32.9秒という鬼脚を繰り出した。東京でその末脚が炸裂しないか。調教も動いた。

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2012年4月26日木曜日

書評 柳広司『ジョーカー・ゲーム』(角川文庫)

 わが家では、財政事情から「文庫化されそうな本は文庫が出るまで待つ」ことが義務づけられている。本書も単行本が出たときから読みたかったのだが、文庫化を待っていた。

 私は、この本をきっかけに、柳さんの名前を知った。上記のような事情で本書は読んでいなかったのだが、すでに文庫化されていたものを何冊か読んだ。
 最後に謎解きの場面があり、犯人、動機、トリックがきちんと明らかになる作品が多く「ちゃんと終わった」という読後感を得られる。ホームズやポワロからミステリーに入った私は「(悪い意味ではなく)懐かしいタイプのミステリーを書く作家さんだなあ」と思っていた。

 そんな柳さんが、この作品で大ブレークした。「歴史上のある時点に架空の舞台を設定し、話を展開する」という得意の手法を用いつつ、上記のような古典的な香りのするミステリーとは一線を画したスパイ小説となっている。

 結論を述べると、めちゃ面白い。
 戦前に軍に設立されたスパイ養成機関「D機関」。そこで、超クールなイケメン(想像、いや妄想)たちが「魔王 結城中佐」の訓練を受け、スパイとして世界中に派遣される。この設定を作った段階で、柳さんの勝ちは確定である。面白くないわけがないだろう。
 東京、横浜、ロンドン、上海、そしてまた東京と、さまざまな舞台で繰り広げられるスパイの暗躍にワクワク、ドキドキ。柳さんの薄暗い雰囲気の文章と、スパイたちの発するオーラが絶妙にマッチしており、冒頭から一気に引きずり込まれる。
 スパイ小説というと、誰がどれで、この人はどこの人で、あの人はこっちの味方かあっちの味方か…と状況が複雑にコンガラガリゼーションしており、面白いけれど読むのに時間がかかる、という印象があるかもしれない。しかし、本作品はそういう複雑さとは無縁である。スパイ小説であるにもかかわらず、状況は単純で、話は入りくんでいない。登場人物も限られている。でも、スパイ小説の面白さは損なわれていないのだ。脱帽。

 本作品は長編ではなく、それぞれ独立した話が数話収録された短編集である。次回は、ぜひ同じ舞台設定での長編を読んでみたい(続編の『ダブル・ジョーカー』も短編集だそうだ)。



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書評 柳広司『キング&クイーン』(講談社文庫)

 柳さんにしては珍しく、現在の日本を舞台にした作品。
 ドキドキ、ワクワク、超スリリングな展開で一気に読み終えた。面白かった。でも、ある意味、期待はずれだった…。柳ファンとしては、評価の難しい一冊だ。

 舞台は現在の東京。六本木のバーで働く女性である冬木が主人公。だがその正体は、ただのアルバイト女性ではなく、長身でクールな元SP。タレントでいうなら、篠原涼子か、黒木メイサか、それともアンジェリーナ・ジョリーか。少なくとも私の読んだ柳小説の中では見たことのないキャラクターだ。
 その冬木に、元世界チェスチャンピオンであるウォーカーとその相棒(?)の中国人女性が助けを求めてくる。彼らは
「命を狙われているのに誰も守ってくれない」
という。ウォーカーの命を狙っているのはいったい誰なのか。元SPとしての経験と人脈を頼りにウォーカーを守る冬木。ウォーカーの本職であるチェスさながらの駆け引きが繰り広げられる。

 というのが粗筋。息をつかせぬ展開が続き、読者を飽きさせない。登場人物たちもキャラが立っており(これも柳小説では記憶にない)、映像化に向いていそうな作品だ。ラストまで一気に読み終えた。

 とても面白かったのだが、しかし上にも書いたように、私にとってはある意味期待はずれな作品だった。私が柳作品に求めていたのは、ラストに謎解きがあり、アッと驚くどんでん返しが待っているような、精緻に組み立てられたストーリーだ。ところが本作品は、ストーリーとしては一直線で、私の求めていたものとは違ったのだ。
 ハラハラ、ドキドキのスリルサスペンスと思って読んでいたら存分に楽しめたのだろうが…。そういう作品が好みの方には是非お薦めである(私も好きです)。
 面白かったけど、期待とは違ったという、何とも評価の微妙な一冊だった。



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【読書メモ】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)

 2020年のベストセラーをようやく読んだ。もっと早く読んでおくべきだった…。   スマホがどれだけ脳をハックしているかを、エビデンスと人類進化の観点から裏付けて分かりやすく解説。これは説得力がある。   スマホを持っている人は、必ず読んでおくべきだ。とくに、子どもを持っている人...