2012年4月26日木曜日

書評 柳広司『キング&クイーン』(講談社文庫)

 柳さんにしては珍しく、現在の日本を舞台にした作品。
 ドキドキ、ワクワク、超スリリングな展開で一気に読み終えた。面白かった。でも、ある意味、期待はずれだった…。柳ファンとしては、評価の難しい一冊だ。

 舞台は現在の東京。六本木のバーで働く女性である冬木が主人公。だがその正体は、ただのアルバイト女性ではなく、長身でクールな元SP。タレントでいうなら、篠原涼子か、黒木メイサか、それともアンジェリーナ・ジョリーか。少なくとも私の読んだ柳小説の中では見たことのないキャラクターだ。
 その冬木に、元世界チェスチャンピオンであるウォーカーとその相棒(?)の中国人女性が助けを求めてくる。彼らは
「命を狙われているのに誰も守ってくれない」
という。ウォーカーの命を狙っているのはいったい誰なのか。元SPとしての経験と人脈を頼りにウォーカーを守る冬木。ウォーカーの本職であるチェスさながらの駆け引きが繰り広げられる。

 というのが粗筋。息をつかせぬ展開が続き、読者を飽きさせない。登場人物たちもキャラが立っており(これも柳小説では記憶にない)、映像化に向いていそうな作品だ。ラストまで一気に読み終えた。

 とても面白かったのだが、しかし上にも書いたように、私にとってはある意味期待はずれな作品だった。私が柳作品に求めていたのは、ラストに謎解きがあり、アッと驚くどんでん返しが待っているような、精緻に組み立てられたストーリーだ。ところが本作品は、ストーリーとしては一直線で、私の求めていたものとは違ったのだ。
 ハラハラ、ドキドキのスリルサスペンスと思って読んでいたら存分に楽しめたのだろうが…。そういう作品が好みの方には是非お薦めである(私も好きです)。
 面白かったけど、期待とは違ったという、何とも評価の微妙な一冊だった。



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