「何ですか、それ?」
と思った人が大半だろう。私もその一人だった。
ヒッグス粒子の発見者の一人である浅井氏が、そういう人たちのために、懇切ていねいに分かりやすくヒッグス粒子を解説したのが本書である。
本書ではまず第1章で、ヒッグス粒子とはどういうもの(「もの」といってもいいのだろうか?)なのかが解説される。
ヒッグス粒子とは、重さの根源となる素粒子である。ヒッグス粒子という小さな小さな粒があるから重さが発生する。逆にいうと、ヒッグス粒子がなければこの世に重さは存在しない。ということは、「物」が存在しないということなのだ。
何と不思議なことだろう。ヒッグス粒子がなければ原子は存在せず、したがってわれわれの世界を形作っている「物」(物質)も生まれなかったというのだ。今のような宇宙が形成されたのはヒッグス粒子のお陰である、といっても過言ではないらしい。
続く第2章では、ヒッグス粒子発見に至るまでの経緯が語られる。CERN(小説『天使と悪魔』でこの組織の存在を知った人も多いだろう)の実験の中枢に位置し、発見までの道のりを最もよく知る一人である浅井氏ならではの、臨場感のある記述が冴えわたる。実験の方法、意義、試行錯誤などが生き生きと書かれている。本書を著すのに最適の人物といえよう。
ここまでは、たいへん分かりやすかった。ヒッグス粒子の発見がなぜ大きなニュースとなったのかがよく理解できる。しかし、後半の第3、4章はついていくのが難しかった。
第3、4章は、ヒッグス粒子について、さらに詳しく述べられている。相対論と量子力学の融合、粒子の理論から場の理論への移行、超対称性理論などが説明されるのだが…やはり、これらを新書100ページあまりで理解しようというのは虫が良すぎるようだ。
というように、最後は悪戦苦闘したが、前半の2章だけでも読む価値は十分にある。ヒッグス粒子に興味のある人はもちろん、宇宙の成り立ちの不思議を知りたい人にはお勧めの一冊である。
湯川氏、朝永氏に始まり、南部氏、小林氏、益川氏へと続く理論物理学が一方にあり、それを証明するために小柴氏や本書の著者である浅井氏が、大規模な施設で実験を繰り返す。素粒子のような極微少の世界の理論を突き詰めていくと、広大な宇宙へと話は広がり、その理論を証明するのにカミオカンデやLHCのような超大型施設が必要になるのがいつも非常に興味深い。
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