2012年6月1日金曜日

書評 村上春樹『ノルウェイの森』(講談社文庫)

 先日、『1Q84』の文庫版の発売が開始された。
「よし、読んでみるか」
と思っていたのだが、そこでふと思いついた。
「よく考えたら『ノルウェイの森』も『海辺のカフカ』も読んでないやん」
というわけで、まずは『ノルウェイの森』から読んでみようと購入。これが面白かった。

 一人称で語られる小説でありながら、三人称的な雰囲気が漂う。それは、主人公であるワタナベの物の見方、感じ方が非常に分析的であり、そのワタナベの一人称でストーリーが語られるからである。
 序盤から中盤にかけては、淡々と話が進む。いや、淡々と進んでいるように思わされてしまう。読み終えてみると、淡々と進んでいると思っていた話の裏には、せつなく、熱く、重い感情や出来事がたくさん潜んでいたことに気づかされるのだ。
 下巻の後半は、それまでの淡々とした雰囲気が一変する。分析的に物を見て、世間や他人や自分のことを理解しているつもりだったワタナベが、自分が何も分かっていなかったことに気づき、揺れ動くためだ。
「あなた意外にいろんなこと知らないのね」
というワタナベに向けられた言葉が(違う文脈から出てきた台詞なのだが)、ワタナベのことを端的に言い表している。そう、ワタナベは、いや「僕」は何も分かってはいなかったのだ。

 40歳を前に、物事をいろいろ分かった気になって日々を淡々と送っている私にとって、グサッとくると同時に、新たな活力を与えてくれる小説だった。
「生は死と切り離されたものではなく、生は死を内包したものだ」ということを思い出させてもらった。日々に埋没していると、ついついそのことを忘れてしまう。

 本書の魅力を、本書を未読の人に伝えるのはたいへん難しい。月並みな言葉だが、まずは読んでみてほしいとしかいいようがない。
 本書を読んだ人どうしであれば、あのシーンやこのシーン、あのテーマやこのテーマについて、いくらでも語り合うことができるだろう。



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2012年5月27日日曜日

2012ダービー、朱雀S 予想の回顧

 土曜は朱雀S。
 本命の◎オールブランニューは、予定通り後方から。レースも予定通りハイペースで流れる。直線では、人気のデンコウジュピターとともに追い込み、3着に突っ込んだ。11頭立ての9番人気だから、大健闘といえるだろう。
 しかし、馬券は枠連で買っていたためハズレ。
「ワイドで買っていれば」
と悔やまれる結果となってしまった。

 日曜はダービー。
 本命の◎グランデッツァは+12 kgだったが、前走が少し減っていたし、それほど太くは見えなかった。レースでは大きく引き離して逃げた2頭の次の馬群の先団に構える。いい位置取りだ。4コーナーを持ったままで回り、抜群の手応えに見えた。
「これはいける」
と思った。池添騎手もそう思ったに違いない。しかし、直線に入って満を持して追い出すも伸びず、残り200 mで失速して10着に終わった。勝ったディープブリランテとほぼ同じ位置にいたのだから、位置取りとしては絶好だったはず。距離なのか、太め残りだったのか、それともこれが実力なのか。明日のコメントを待ちたい。

 勝ったのはディープブリランテグランデッツァの一つ前にいた馬だ。直線では早めにスパートし、しぶとく伸びて追撃をしのぎきった。さすが岩田やなあ。
 時計は速かったが、前にいた馬が1着と3着に来たのだから、結果的にはハイペースではなかったということなのだろう。
 人気の2頭は、前残りの競馬では、あの位置からでは厳しかった。人気ほど実力が抜けていたわけではなかった、という結論にしておきたい。

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書評 高橋昌一郎『感性の限界』(講談社現代新書)

『理性の限界』『知性の限界』に続く、限界シリーズの三作目。前二作と同様、仮想シンポジウムという形式で話は進められる。さまざまなジャンルの専門家が入れ替わり立ち替わり会話に参加し、それぞれの専門分野の知見を紹介することにより、読者に現在の哲学、心理学、認知科学などの最新情報を伝える。

 第一作からそうなのだが、これが非常に分かりやすい。現在の最新の話題が、素人にも分かるように優しく語られる。哲学、心理学、認知科学などの分野の最先端の話題をサッと見渡すのに、本書以上に適した本はないだろう。
 シンポジウム形式なので、話題が散漫になりがちで、系統立てた知識を得るのは難しいが、そのような勉強がしたい人は教科書を読めばよい。

 今回は『感性の限界』ということで、「行為の限界」「意志の限界」「存在の限界」の三つのテーマについて仮想のシンポジウムが行われる。
 私が非常に興味深かったのは、人間の脳のシステムには「自律的システム」と「分析的システム」の二つがあるという説だ。この説は、現在のところかなり受け入れられているらしい。
 平たく言えば「自律的システム」は本能的に情報を処理するシステムで、一方の「分析的システム」は理性的に情報を処理するシステムである。たとえば夜の公園で草陰がガサガサと揺れたとすると「怖っ」と感じてしまう。これが自律的システムによる情報処理である。肉食動物に襲われるのを避けるという、太古から受け継がれた感覚がいまだに人間を支配しているのだ。
 しかしそこで
「現在の日本に大型肉食動物が放し飼いになっているなんてことはあり得ない。大丈夫」
と判断を下すのが「分析的システム」である。
「私は合理的な人間だから、分析的システムがかなり勝っているんだろうなあ」
と思う方も多いだろう。しかし現実はそうではない。人間という動物がいかに非合理的か、本書を読めばよく分かる。たとえば、自分の唾液をコップに溜めて、それをグイグイと飲めるだろうか。それが躊躇なくできる人は、かなり合理的といってよいかもしれない。

 この手の分野の本を読むといつも思うことだが、われわれが自我、意識、意志、個などと呼んでいるものは、思っているほど能動的なものではないらしい。悲しいかな何かに「踊らされている」もののようだ。では、何に踊らされているのか。かなり端折った言い方をすれば、つまるところそれは「遺伝子」だということになるのだろう。
 人間は、少なくとも現在のところは、かなりの部分、遺伝子の入れ物に過ぎないらしい。今後、理性や知性や感性の力でその壁を乗り越えられるのか、それともその壁は決して乗り越えられないものなのか。文明が始まってから約4000年。答えが出るのはまだまだ先のようだ。



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2012年5月26日土曜日

2012ダービー オレの予想を聞いてくれよ

 いよいよ今週はダービー。レースの位置づけについては説明の必要はないだろう。世代の頂点を決めるレースである。

 JRAのCMがどの馬を取り上げるのか注目していた。ナリタブライアンが本命、対抗にスペシャルウィークという予想だったのだが、正解はウイニングチケット。してやられた。
 この年はナリタタイシン、ビワハヤヒデを加えた3強がクラシックでしのぎを削り、一冠ずつを分け合った。いま振り返ると、なかなか盛り上がった年だったということか。

 さてダービー。頂上決戦のわりには、馬券は堅く収まらない。ここ5年、馬連で万馬券が3回、残りの2回も3000円台である。かといって、後で連対馬を見ると、フロックといえるような馬はほとんどいない。強い馬が人気の盲点になり隠れていることが多いということだ。
 今回は皐月賞の上位3頭が1~3番人気を占め、この3頭のみが単勝10倍以下だが、上にも書いたように、それほどすんなりと収まるようには思えない。隠れた実力馬を探したい。

 今年の皐月賞で、私はグランデッツァゴールドシップから、迷ったあげくグランデッツァを本命に推したのだが、結果はご存じの通り。最後の最後で二者択一の選択を間違えたということだ。 こうなってしまうと
「じゃあ今度はゴールドシップ本命で」
とは買いにくい。

 本命は◎グランデッツァ。皐月賞1番人気馬の巻き返しに期待したい。私の馬券的にも、皐月賞の分を取り返してもらおう。
 その皐月賞では、5着に敗れたとはいえ、大外を回ってのもの。0.7秒差はやや離されすぎだが、2着とは0.3秒差。従来の先行策で戴冠を期待したい。
「2年連続は2年連続でも、調教師ではなく騎手だった」
てなことにならんだろうか。
 推奨穴馬はコスモオオゾラ。弥生賞1着、皐月賞4着の馬が2桁人気でいいのか。

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2012年5月25日金曜日

朱雀ステークス、欅ステークス オレの予想を聞いてくれよ

 今週はいよいよダービー。しかし、その前日のメインレースは、西が朱雀Sで東が欅Sと、何とも地味な組み合わせである。せっかくのダービーウイークなのだから、もう少し何とかならないものか。
 たとえば「明日はダービー特別」とか「ダービー前日ステークス」なんてのをメインレースにしてはどうだろうか。するわけないよな…。

 というわけで、京都の土曜メインは朱雀S。
 朱雀とは空想上の鳥らしいが、この場合はおそらく京都の地名を指しているのだと思う。調べてみると、二条城周辺に「朱雀」と名のつく学校がいくつかあるので、このあたりが朱雀地区なのだろうか。しかし、東山区にも右京区にも朱雀という町名がある…。特定の地域を指すわけではいのだろうか?
 結論が出ずモヤモヤした気持ちは残るが、疑問が解消したところで馬券が当たるわけではないということで、調査は打ち切りとする。気になる方は独自に調査を進め、結果を報告していただければありがたい。

 さて朱雀S。今年からハンデ戦になったようで、少頭数だが荒れそうな雰囲気である。穴っぽいところを狙っていきたい。
 前に行きたい馬が揃い、しかも少頭数。差し馬にとっては願ってもない状況である。前残りの京都とはいえ、6週間開催の最終週だし、後ろから行く馬を中心に据える。
 本命は◎オールブランニュー。京都は0-0-0-4と実績がないのが気がかりだが、前々走のダート戦以外は、1着馬とそれほど差のない時計で走っている。展開の助けを借り、激走を期待したい。
 もう一頭、気になるのが○ウインバンディエラ。昇級初戦の前走を0.4秒差にまとめた。
 両馬ともハンデも手頃。彦根Sのレベルが低かった可能性もなきにしもあらずだが、そのときはしゃあない。馬券はこの両馬が入った6枠から、枠連で勝負。

 欅Sも穴っぽいところから◎ナニハトモアレを本命にする。

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2012年5月24日木曜日

書評 東野圭吾『十字屋敷のピエロ』(講談社文庫)

 わが家の本棚に、未読の東野小説がおかれていた。例によって母からの借り物らしいが、いつの間にわが家にやってきたのだろうか…、という疑問は後回しにして、さっそく読んでみた(それでいいのか)。

 本作は、1992年に文庫が刊行された、東野さんの初期の作品。
 十字型をした屋敷で女性が自殺する。そして四十九日の夜、今度はその夫と秘書(浮気相手)が殺される。夫妻の姪の視点から物語は進む。
 殺人事件の犯人は、本書の半ばあたりで明らかになる。
「まだページが残っているなあ。このままで終わるはずがない」
(こういうのが分かってしまうのが紙の本の欠点であり、この欠点の克服が電子書籍に期待するところの一つなのだが、それはまた別の話)。
 主人公である夫妻の姪は、事件の解決に疑問を持ち、真相に迫っていく。そして起こる第二の殺人。ついには真犯人が明らかになり、そしてラストはお得意のどんでん返し。またしても、東野さんの筆力、構成力に引き込まれ、あっという間に読み終えた。「毎度おおきに」てなところである。

 特徴的なのは、ピエロの人形から見た情景が間に挟まれることだ。この視点を挟むことにより、生身の人間の動きからでは得られない情報がストーリーに加わり、ミステリーにスパイスをきかせている。東野さんらしい、チャレンジングかつ魅力的な試みだ。

 動機の点で少し物足りない部分はあり、鍵を握るトリックにも若干無理がある気がしないでもないが、少ない登場人物の絡みが巧みに展開されていて、臨場感のあるミステリーに仕上がっている。
 主要女性陣たちの美人セレブっぷりに注目(締めはそれかよ)。



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2012年5月22日火曜日

書評 J・P・ホーガン『巨人たちの星』(創元SF文庫)

 巨人シリーズ三部作の最後の一冊。『星を継ぐもの』、『ガニメデの優しい巨人』で散りばめられた謎が次々に明らかになり、すべてがつながっていく。

 第一作が科学的興奮に満ちた知的SFなら、第二作は太古のガニメアン(宇宙人)たちとの交流を取り上げたハートフルSF。そしてラストを飾る本作は、意外なところから現れた「敵」との駆け引きを描いたハラハラドキドキSFと言えよう。

 地球人、太古のガニメアン、そして現在のガニメアンが一致協力し、敵に立ち向かう。ガニメアンの科学力と地球人の悪知恵の相乗効果により、無類の強さを発揮するところが面白い。
 現実の地球の歴史と、架空の人類の進化史を絶妙に組み合わせた、アッと驚くストーリーが展開される。
 ネタバレになるので詳しく魅力を伝えられないのが残念だ。SFファンでなくとも楽しく読めることは私が保証する(保証したからといって、どうもしないのだけど…)。サイエンスが散りばめられたミステリーと聞いて興味をそそられる方は、是非一作目から読んでみてほしい。



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【読書メモ】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)

 2020年のベストセラーをようやく読んだ。もっと早く読んでおくべきだった…。   スマホがどれだけ脳をハックしているかを、エビデンスと人類進化の観点から裏付けて分かりやすく解説。これは説得力がある。   スマホを持っている人は、必ず読んでおくべきだ。とくに、子どもを持っている人...