2013年12月5日木曜日

書評 スティーヴン・ストロガッツ『ふたりの微積分 ―数学をめぐる文通からぼくが人生について学んだこと―』(岩波書店)

 これぞ、男の友情だ。

 著者のスティーヴン・ストロガッツは、MITなどを経て、現在はコーネル大学で教授を務める数学者。その著者と、高校時代の数学の教師だったドン・ジョフリー先生との、30年以上に及ぶ文通での交流を描いた作品。

「手紙を通じた、心の温まる交流」と聞くと、人生の悩みを綴ったような文通を想像してしまうが、彼らの手紙にはそのような内容はほとんどない。手紙の内容は、ほぼすべてが数学に関することなのだ。
 しかし、著者が自分の人生を振り返りつつ、当時の状況を地の文で挟み込むことにより、手紙の文面の底に横たわる気遣いや思いやりが、しみじみと伝わってくる。人生のどのような局面でどのような手紙が届き、それに対してどのような返事を書いたか。そこを顧みることで、「過去が現在に追いついてくる」ような著者の心情が描かれる。

 文通の期間中に、著者本人には、数学者という進路への悩み、離婚、再婚、兄や親の死などの出来事が起こる。一方、ジョフリー先生は、息子の死、数学教師からの引退、脳卒中などを経験する。
 しかし、手紙にはこれらの出来事はほとんど語られない。あくまでも数学を通じて、彼らは文通を続けるのだ。この、つかず離れずというか、相手の敷地に土足で踏み込まない関係に心が動かされる。これぞ、男の友情だ、
 男の友情というと「スクールウォーズ」のような熱血ドラマを想定しがちだが、そういうのはむしろレアケースだろう。本書のような、そこはかとなく相手を気遣う、遠いようでいて実は近くにいる関係こそ、男の友情なのだ(独断)。

 ただ、本書に出てくる数学の内容は非常に難しい。高校の数学をマスターした人でも理解できない部分が多々あると思う。しかしその部分は「宇宙語で書いてある」と思って読み飛ばしても差し支えない。
 手紙の内容の大半は宇宙語で書いてあるのに心に響くのはなぜなのだろう。不思議だ。



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書評 NHKスペシャル深海プロジェクト取材班、坂元志歩『ドキュメント 深海の超巨大イカを追え!』(光文社新書)

 4人の男(オッサン)の執念が、ムンムンと臭って、いや匂ってくる。

 みなさん、見ましたか?「NHKスペシャル 世界初撮影! 深海の超巨大イカ」。2013年1月に放送され、生物ドキュメントとしては異例の高視聴率(16.8%)を記録した番組である。宇宙よりも遠いといわれる深海に住むダイオウイカの動く姿を、世界で初めて捉えた映像は迫力満点だった。
 その番組の制作過程の裏側を書いたのが本書である。まだ番組を見ていない人は、まずそちらをご覧になることを強くお薦めする。

 中心人物は4名。NHKの岩崎と小山、カメラマンの河野、そして国立科学博物館の窪寺である。この4人の
「ダイオウイカの映像を撮るんじゃ~」
という執念が、あの1時間余りの番組として結実した。その過程が、時間の経過とともに記されている。部長職を辞してプロデューサーとして現場に戻った岩崎。仕事の合間を縫っては小笠原に行き、ダイオウイカを追う小山と河野。研究者として、その半生をダイオウイカに捧げてきた窪寺。彼らの執念が、小笠原の漁師たちを、NHKの上層部を、海外のメディアを動かした。
 この、一歩間違えばストーカーと言われてしまいそうな、彼らの執念を読むための本であるといえよう。天才と変態は紙一重だということがよく分かる(?)。
「彼らの執念の数百分の一でも私にあれば、もっと出世できるのに…」
と妄想せずにはいられない。

 クライマックスは、やはりダイオウイカとの遭遇の場面。番組にもなった、潜水艇を使っての撮影のシーンだ。ここに至るまでの思いがすべて凝縮したかのような、奇跡のシーンが撮影される様子は圧巻である。もう一度番組を見たくなる。

 残念だったのは、この撮影の直接のMVPは、上記の4人ではなかったことだ。アメリカのエディス・ウィダーの開発したエレクトリック・ジェリー(電子クラゲ)という機器が、ダイオウイカをおびき寄せた。この、ごく弱い青い光がクルクルと回る機器をエサと思い込み、ダイオウイカがアタックを仕掛けてきたのだ。恐るべし、欧米の底力。
 とはいえ、ダイオウイカがアタックしてきたのは、他の研究者たちではなく、窪寺が潜水艇に乗っているときだった。窪寺を含む4名の執念がなければ、ダイオウイカは来なかったのかもしれない。




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2013年12月1日日曜日

予想の回顧 ジャパンカップダート、金鯱賞、ステイヤーズS、GブライドルT 2013

 今週はジャパンカップダート。ホッコータルマエが1番人気になるだろうとは思っていたが、1倍台はちょっと人気しすぎのような気がした。そこまでの差はなかろう。
 レーススタート。逃げが予想されたパンツオンファイア(「尻に火がつく」という意味らしい)は馬場の違いに戸惑ったのか、行けず。その結果、エスポワールシチーがすんなりハナを切る。レースは予想外のスロー。これは前有利か。
 ◎ベルシャザールは3コーナーからマクリ気味に上がっていく。この流れで外を回しては厳しい…と思っていたのだが、外をグイグイと伸びると、先に抜け出したホッコータルマエをかわして見事に1着。これは強かった。
 2着にはその後ろを追うように伸びてきたワンダーアキュート。またしてもあと一歩届かなかったが、確実に差してくる。6番人気とは、人気の盲点だったか。
 馬券は厚めに買っていた馬連をとった。5000円近くついたのは美味しかった。

 土曜の中京メインは金鯱賞。
 逃げ馬不在でスローペースのはずが、意外に縦長の展開に。ハナを切ったのは、何とメイショウナルト。「サイレンススズカメモリアル」だったので、武豊は何としてもハナを切りたかったのだろうか(そんなことはないと思うが)。
 ◎カレンミロティックはそのメイショウナルトから離れた2番手。直線入り口で、早くもメイショウナルトが失速。押し出されるようにカレンミロティックが先頭に立つ。
「これはちょっと早いのでは?」
という心配をよそに後続との差を広げ、2馬身半差の完勝。有馬記念での伏兵の一頭になりそうだ。
 2着は道中3番手につけていたラブリーデイ。馬連をとった。
 2、3番手の馬が1、2着に残ったことを考えると、ハナを切ったメイショウナルトは不甲斐なかった(しんがり負け)。そうとう引っかかったのだろうか。
 3着にウインバリアシオンが突っ込んできたのには驚いた。長期休養あけで+30kgなのに格好をつけた。次走は有馬記念か。印がいりそうだ。

 中山メインはステイヤーズS。
 ◎ユニバーサルバンクはぽつんと一頭で中団を進む。勝ち馬の切れ味には完敗だったが、しぶとく伸びて2着を確保。よく頑張ってくれました。馬連をとった。

 阪神メインはGブライドルT。
 ◎アメリカンウィナーはいい手応えで直線を向くが、閉じこめられて行き場を失う。さすがWSJSといったところか。最後は進路を確保するが2着までが精一杯。馬券は、相手を絞っていたため1着のクリノスターオーが抜けており、ハズレ。

 今週は4戦3勝で、外れたレースも◎は2着。トータルの収支もプラスになった。この勢いを有馬記念まで続けていきたい。

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2013年11月30日土曜日

2013 ジャパンカップダート オレの予想を聞いてくれよ

 今週は阪神でジャパンカップダート。来年から中京に移るため、阪神では最後のレースとなる。中京にGIが増えるのはよいことだし、左回りにするとアメリカから馬が来てくれるかもしれない。JRAの番組変更には批判的なことが多い私だが、今回は妥当な判断だと思う。代わりに阪神には2歳のGIができるそうだし、快く送り出したい(?)。

 さてレースにいってみたい。
 GI馬が9頭という豪華メンバーが揃った。また、招待レースとしては最後のレースにアメリカから一頭参戦してくれたのもありがたい話だ。
 本命は、そうそうたるメンツを差し置いて、ベルシャザール。ダービーでオルフェーヴルの3着した素質馬が、ダートに路線を変更して能力開花。前走は着差以上の勝ちっぷりで重賞初制覇を飾った。その前走直後は、ここ(JCD)はパスしてフェブラリーSを目指すという話だったのだが、予定を変えてここを使ってきた。調子がよいからこその予定変更だと解釈したい。
 松田国厩舎で芝からダートに変わって活躍した馬と言えばクロフネだ。そこまでの活躍を期待するのは酷だが、似たような雰囲気は感じる。
 推奨穴馬は、こちらも芝の実績があるブライトライン。もう一頭はグレープブランデー。前走の負けで人気を落としているが、馬体が絞れれば怖い。

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2013年11月29日金曜日

2013 金鯱賞、ステイヤーズS、ゴールデンブライドルT オレの予想を聞いてくれ

 今週から阪神・中山・中京開催が開幕。今年の競馬もあと4週間だ。今年の馬券成績は散々だったが、秋以降は少し持ち直してきた。最後の開催で一稼ぎして、例年並みの水準に戻して一年を終わりたい。

 そんな開幕週の土曜日は、中京で金鯱賞、中山でステイヤーズS、阪神でWSJSのゴールデンブライドルTが行われる。
「この時期に金鯱賞ですか…」
とさっそく文句をつけたのが昨年のこと。今回が、冬に移ってから2回目である。
 さい先よく、昨年の勝ち馬オーシャンブルーは、次走の有馬記念で2着に入った。今年も有馬記念で好走する馬が出るだろうか。

 さてレースにいってみたい。
 かなり手薄なメンバーだ。実績馬の多くは休み明けや不調。GIIなのに、各上挑戦の馬もチラホラ見える。
 それなら本命は◎カレンミロティック。前々走で準オープンを勝ち上がった馬だ。前走は初のオープンで人気を裏切って惨敗したが、初の洋芝、距離、展開、馬場など悪条件が重なった。左回りも得意だし、リフレッシュされた今回は本領発揮。
 相手は、メイショウナルトをは厚めに抑える。
 推奨穴馬はシャドウバンガード。各上挑戦だが、この相手なら。

 ステイヤーズSはアルゼンチン共和国杯の再戦といった様相。本命は別路線組から◎ユニバーサルバンク

 阪神メインはゴールデンブライドルT。
「WSJSにこんなレースあったかな…、そもそもブライドルって何やねん?」
と思ったので調べてみた。
 まずブライドルとは「頭絡・ハミ・手綱などを総称する英語」のことだそうだ(JRA特別レース名解説)。以前にあったゴールデンスパー(拍車)Tがなくなって、ブライドルTになった。拍車の使用が禁止されたことが理由らしいが、そもそも拍車って何やねん…。これは、来年までの宿題にしておきたい。
 前置きが長くなったが、本命は◎アメリカンウィナー。鞍上はイギリスのベテラン、ヒューズ騎手。WSJSは初出場だ。どんな騎乗を見せてくれるのか楽しみにしたい。

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2013年11月28日木曜日

書評 伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』(創元推理文庫)

 何を書いてもネタバレになりそうで、書評を書くのを躊躇していたのだが、ある事実を知り、書くことにした。

 映像化不可能。小説の醍醐味を堪能した。

 二つの話が並行して進んでいく。
 一つは「現在」。大学に入学するために一人暮らしを始めた「僕」の話だ。「僕」は引っ越し先のアパートで、河崎という隣人から書店を襲うこと(書店強盗)を持ちかけられる。
「そんな馬鹿な…」
と思いつつ、なぜか参加してしまう僕。
 もう一つはその「二年前」の話。河崎のモトカノである「わたし」と、そのイマカレのドルジ、そして河崎。この3人の物語だ。
 この「現在」と「二年前」を行ったり来たりしつつ、ストーリーは進んでいく。そして二つの話が交わるとき、すべてが明らかになる。

 という、ミステリーにありがちなパターンの構成なのだが、ありがちなのは構成だけである。アッと驚く大逆転で、話はストンと落ちる。お見事としか言いようがない。
 また至る所に伏線が張ってあり、ラストにはそれが見事に回収されるところも気持ちがよい。読み終えて
「なるほどねぇ」
と唸ってしまった。感心のあまり、読後に唸ってしまう本も珍しい。

 で、急に書評を書こうと思った理由。それは、冒頭の
「映像化不可能。小説の醍醐味を堪能した」
にある。映像化不可能のトリックがこの小説のキモなのだ。
 だがしかし、何と、本書は映画化されているというではないか…。マジっすか。いったいどうやって映画にしたのだろうか、気になって仕方がない。
 映画を見たら、報告したい。

 追記:映画見ました。



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2013年11月27日水曜日

書評 森見登美彦『有頂天家族』(幻冬舎文庫)

 京都好きは必読。人間界で暮らす狸一家のハチャメチャ、ほんわかストーリー。

 古来、桓武天皇の時代から、京都には狸と天狗がおり、人間に混じって生活しているのだという。そのうち、下鴨の糺の森に暮らす狸一家の物語だ。
 主人公は下鴨矢三郎という狸。亡き父の残した四兄弟の三男坊である。そこに、個性豊かな天狗や人間が絡み合い、チャンチャンバラバラの大活劇を繰り広げる。
 下鴨一家の師匠である赤玉先生は、かつての大天狗の面影もなく、プライドばかり高い偏屈な天狗となっている。その赤玉先生にさらわれて、人間から天狗に育てられたのが、弁天という超絶妖艶天狗。このクールなエロティックさには、私もKOされた(おいおい)。さらに、下鴨家のライバルである夷川家が、京都の狸界を牛耳ろうと策を巡らす。
 これらの主要登場人物(狸?)が、みなキャラが立っている。マジメな狸もいれば、阿呆な狸、腹黒い狸もいる。でも、よく考えてみれば、これって人間界も同じかも?…

 弱い立場の者たちが、強者からの圧力など意に介さず、生きたいように生き、大暴れするという構図が、夏目漱石の『坊ちゃん』を連想させた。「狸」という言葉がそうさせたのかもしれない。

 森見氏は京大農学部出身の小説家ということは知っていたのだが、初めて著書を読んでそれも納得。京都のちょっと隠れた魅力が伝わってくる作品だった。外部から京都を見る、ガイドブック的視点では作れない作風だろう。長年、実際に京都に接してきたからこそ書ける、ディープな京都を垣間見させてくれる。またそれが
「これが本当の京都なんどす」
と、押しつけがましく語られるわけではない。東華菜館や出町柳商店街など、京都に暮らす人には「!」と来る場所が絶妙のタイミングで登場するのがニクい。
 京都好きの人はもちろんだが、京都に住む人にもぜひ読んでもらいたい。

 ちなみに私の上司は、大学入学時に東北地方から京都に出てきて以来、40年以上京都で生活している。その上司が
「森見登美彦はええぞ~。お前らも読め」
と、飲む度に勧めてくるワケがよく分かった。



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【読書メモ】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)

 2020年のベストセラーをようやく読んだ。もっと早く読んでおくべきだった…。   スマホがどれだけ脳をハックしているかを、エビデンスと人類進化の観点から裏付けて分かりやすく解説。これは説得力がある。   スマホを持っている人は、必ず読んでおくべきだ。とくに、子どもを持っている人...