2014年2月11日火曜日

書評 駒崎弘樹『「社会を変える」を仕事にする ―社会起業家という生き方―』(ちくま文庫)

「文句言ってるばかりじゃなくて、行動しようよ」と背中を押された気がした。

 駒崎氏が、病児保育サービスのNPO法人「フローレンス」を立ち上げて、その事業を軌道に乗せていく過程を自ら著した本。駒崎氏は私より少し年下なのだが、同世代といってよい年齢だ。同世代に、こういう頑張りをしている人がいるのは、とても励みになる。
 駒崎氏は、気になる存在だった。私と同世代のビジネスマンというと(少し年上だが)楽天の三木谷氏やライブドアのホリエモン氏など、ITベンチャーで財をなした方々が代表選手だ。
 その中で駒崎氏は「若いのに地に足がついていて、全体がよく見えているなあ」という印象で、IT系の人たちとは違う雰囲気を感じていた。

 その、駒崎氏の本を読んでみようと選んだのが本書。駒崎氏がフローレンスを立ち上げようと思い立つまでの過程、事業を軌道に乗せるための奮闘ぶり、そして何より、フローレンスにかける思いが詰まっている。
 フローレンスは、病児保育のサービスを手がけるNPO法人だ。ところで、病児保育とは何か、ご存じだろうか。読んで字のごとく「病気の子どもを保育する」サービスなのだが、日本ではこのサービスはほとんどなかったのだ。
 日本の保育所事情はいろいろ改善の余地があるが、その筆頭が
「病気の子どもの保育」
だろう。私も子どもを保育所に入れるまでは知らなかったのだが、日本の保育所は病気の子どもは預かってくれないのだ。病気の子どもを預かれない事情も分かるし
「子どもが病気のときくらい、仕事休めよ」
という意見も分かる。わが家も「子どもが病気のときは仕事を休もう」というスタンスで、妻がそういう条件の仕事に就いている。大げさに言えば、妻の仕事を犠牲にしているわけだ。
 それはそれで一つのポリシーなのだが、それ以外の道は選べないというのはよろしくないだろう。父母ともにバリバリ仕事をして、背中で子育てをするという道もあってもよいはずだ。しかし現在の日本では、祖父母と同居するかベビーシッターを雇わない限り、それはほぼ不可能だ。
 もっと切実なのは母子家庭だ。「子どもが病気する度に休まなければならないので、収入も減るし、正社員にもなれない」。こんな現実があるらしい。

 前置きが長くなってしまったが、この現状に切り込んだのが駒崎氏である。病児保育を事業として成り立たせる、すなわち「利益の出る」事業として展開するために、さまざまなアイデアを出し、協力を仰ぎ、交渉を重ね、実現していく。その発想と交渉力には、若さゆえのまっすぐさと、若者らしからぬ老かいさが同居している。
 一つ触れておきたいのは「NPOは利益を出してもよい」ということについてだ。NPOというと、ボランティアで成り立っている団体であり、利益を出すことを目指してはならないと思っていないだろうか。私も本書を読むまではそう思っていたが、そうではないそうだ。NPOは
「出資者(株主)に利益を還元してはいけない(配当はない)」
というルールがあるだけで、法人自体は利益を出してもよいのだそうだ。

 駒崎氏も含めたわれわれの世代(第二次ベビーブーム世代)は、(私も含めて)ブツブツ文句を言うだけで何も行動しないものだから、人数は多いのに、影が薄くて影響力もない。そんな中で、ブツブツ言うだけじゃなくて行動している後輩に、背中を押される思いがした。




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