主人公は鈴木タマキという小説家。タマキが、担当編集者だった青司との熱烈な不倫を精算した直後が話の舞台である。
タマキがいま書こうとしている小説は、緑川という小説家の話。その緑川は、自らの不倫を描いた小説で著名という設定。小説の中の不倫作家(タマキ)が「小説の中の小説」を書いた不倫作家(緑川)の本質に迫るという、不倫×不倫なストーリーである。
主人公であるタマキの不倫と、小説の中の小説家である緑川の不倫が並行して語られるという重層的な構成になっている。緑川の不倫を描くことで、タマキ自身の不倫が明瞭に浮かび上がってくるところが面白い。
とはいえ、本書のテーマは不倫ではない。小説家が小説を作り上げていく苦しみを、不倫という事象を媒介にして描いたのが本作品である。小説を書きたい、もしくは書いているという人には、ズンと響いてくる作品であろう。一方、そうでない人にとっては(私も含めて)、結局どういう話なのか掴みづらい話かもしれない。私は、ちょっとマニアックだという印象をもった。
たまたま、私が直前に読んだ本が『檀』というこれまた不倫小説だった。檀一雄も不倫作家なら、タマキも不倫作家で、緑川も不倫作家だ。私の頭の中は不倫であふれそうだ(意味不明)。オレにも不倫しろってことなんですかね(ちょっと待て)。
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