2013年6月7日金曜日

書評 スコット・トゥロー『推定無罪 上・下』(文春文庫)

 針を刺すような緊張感がたまらない、法廷サスペンス。主人公は、浮気相手の殺害容疑で起訴された敏腕検事。虚々実々が入り乱れる法廷での駆け引きが、圧倒的な迫力で描かれる。それもそのはず、著者は数々の大事件を担当した元検事で、本書を書いた当時は大手事務所に属する弁護士だったのだ。

 検察側と弁護側の、法廷での駆け引きが存分に堪能できる。検察官も弁護士も、所詮は同じ穴に住む住民どうしだということがよく分かる。しかし同じ穴に住みながらも、好き嫌い、派閥、人脈などによる駆け引きがあり、そのせめぎ合いが裁判の結果となるのだ。本書では容疑者が検察官であるため、その色合いがさらに濃くなっている。
 裁判は意外なかたちで終わるが、その先に待つのは、アッと驚かせる結末。

 興味深かったのは、主人公である容疑者が本当に罪を犯したのかどうか、読者はおろか、弁護士にも誰にも知らされないところだ。主人公は殺したのか、殺していないのか。これが隠されているところが、読者を混乱させる。
 さらに、裁判の結果は、主人公が本当に犯人なのかどうかとは、どうやら別のところで決まってしまうらしいというところもミソだ。これがタイトル『推定無罪』の意味するところなのだろう。

 実は、私が本書を即買いしたのにはわけがある。
 本書は1988年に日本で刊行され(原作は1987年刊)話題になった本の、新装版である。1988年当時、高校生だった私は(何で見たのかは忘れたが)本書の書評を読み
「これは面白そうだ」
と、小遣いをはたいて、その頃はほとんど買ったことがなかったハードカバー版を購入したのだ。
 しかし、当時の私は受け付けなかったようで、途中で挫折したことを覚えている。まだ社会的な見識がなく、面白さがよく分からなかったのだろう。
 ところがいま読んでみると、一気に読破してしまった。私もいろいろ経験を積んで、こういう面白さが分かるようになってきたということか。ひらたく言えば、歳を取ったと言うことだ(トホホ)。
 そういう、自分の成長(老化?)を感じられたという意味でも、考えさせられた一冊だった。「若い頃に読んだ本を読み返してみると、新たな発見がある」という歳になってきたのかもしれない。



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