私は、小説は酒を飲みながら読むのが常なのだが、本書は飲みながらは読めなかった。
小島容(いるる)という男が入院するシーンから話は始まる。小島はアルコールで肝臓をやられ、這うようにして病院までやってきた。そう、小島は重度のアル中だったのだ。
その小島の治療の過程と、入院に至るまでのアルコール人生が、並行して語られる。人はいかにしてアルコールに溺れるか。そして、いったん溺れてしまうと、そこから抜け出すのがいかにしんどいか。これらが飄々と語られるところが、われわれ酒飲みの背筋をさらに冷たくする。
とはいえ話は暗くはなく、むしろひょうきんでさえあり、思わず吹き出してしまうシーンがいくつもあった。このあたりが中島氏の才能なのだろう。この軽妙な語り口は、酒を飲まない人に酒の世界を知ってもらうのに最適かもしれない。
アルコールは文化であるが、同時に毒でもある。読んでいるとき「酒は飲んでも飲まれるな」という諺が脳裏に浮かんできた。
また「健康」ということについても、改めて考えさせられた。健康はもちろん大切だ(40になるとよく分かる)。だが健康が目的になってしまうと、それはそれで「何のための人生か」ということになってしまう。臨終の床で「オレは健康だったなあ」とつぶやいて息を引き取るのも悪くはないかもしれないが、健康は人生の手段であり、目的ではないはずだ。
すべての酒好きに読んでほしい一冊。
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