「海老蔵の親父が團十郎なんだよね」
程度を知っていれば十分に楽しめる一冊だ。
歌舞伎界で最も重要なのは血筋。それは今も黎明期も変わらないようだ。そんな世界の中で、血統的にはなんの後ろ盾もない中村仲蔵という役者が奮闘を繰り広げる。稽古と工夫を重ねることで人気を得ていき、ついには座長にまで登り詰める様子が熱く描かれる。
読んでいるときは、実在の人物なのか架空の人物なのか知らなかったのだが、いま調べてみると、実在の人物どころか中村仲蔵という名跡は今でも続いており、その初代なのだそうだ。また、落語の演目になるほど人気があるらしい。
「そんなことも知らずに読んでいたのか…」
と思わなくもないが、それでも楽しめるほどよく書けた小説ということにしておきたい。
競馬もそうだが、良血ばかりでは面白くない。いや、血統的にはたいしたことがない馬のほうが、むしろ人気があったりするものだ。そういう面での人気もあった役者さんなのだろう。
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