2015年9月16日水曜日

【書評】小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』(文春文庫)

人形に入ってチェスを指す「盤下の詩人」リトル・アリョーヒン。
そのはかなくも美しい生き様に心が暖かくなる。


 主人公はチェス指しの少年。この少年は、人形に入ってチェスを指す。その人形は過去の名棋士にちなんで「リトル・アリョーヒン」と名づけられた。小説内では少年もリトル・アリョーヒンと表現される。少年と人形は一体なのだ。

 少年はチェスの先生や祖母をはじめ、さまざまな人との出会い、別れを経験する。その媒介にはつねにチェスがあり、対話はチェスによってなされるのだ。
「最強の手が最善とは限らない」
というチェスの先生の教えに従い、対局相手との共同作業により美しい棋譜を次々に生み出すリトル・アリョーヒン。その、はかなくも美しい生き様に心が暖かくなる。

 物語の背景にはつねに「死」があるのだが、恐怖感や暗さはなく、むしろほんのりと暖かい読後感が残る。
「死は生のすぐ隣にあるけれど、怖いことではないんだよ」
と語りかけられている感じがした。これが小川作品の通奏低音なのだろう。




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