2016年8月3日水曜日

【書評】松井今朝子『円朝の女』(文春文庫)

大落語家・三遊亭円朝を通して見る、江戸末期から明治初期の世相


 江戸末期から明治初期にかけて活躍した落語家、三遊亭円朝。近代落語の祖とも言われる大名人だったそうだ。しかし本書の主題は円朝の人生でも話芸でもなく、円朝を愛した女たちが主人公。章ごとに5人の女性が登場する。
 1章から順に、武家の行かず後家、花魁、唯一の円朝の実子を産んだ女、妻、義理の娘。この5人と円朝とのかかわりが順に語られる。艶っぽい話ではなく、成熟した大人の関係がしみじみと心地よい。
 ほろっときたのは、最後の第5章。円朝の最期を看取った、義理の娘の物語だ。結局、恋とか愛とかは、最終的にはこういう形に収斂するのかもしれない。

 また、話のあちこちから、江戸末期~明治初期の世相が見えてくるのが松井作品の面白いところ。国民にとって明治維新や日清・日露戦争がどういうものだったのか、庶民目線から見た時代の雰囲気を感じ取ることができる。

 いま、何回目(何百回目?)かのブームを巻き起こしている落語。そのルーツをたどるには好適の一冊。



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