2016年9月26日月曜日

【書評】平野啓一郎『高瀬川』(講談社文庫)

チャレンジングな試みに注目


 『清水』、『高瀬川』、『追憶』、『氷塊』の四話が収められた短編集。相変わらず、重厚なのにスイスイと読めてしまう平野小説。平野氏の小説を読むといつも、純文学(芥川賞)と大衆文学(直木賞)の区別に何の意味があるのだろうと思ってしまう。

 前半の『清水』と『高瀬川』はもちろん京都を舞台にした物語。京大出身の平野氏が京都を舞台に選んだ話だが、「京都」にはそれほどの意味はない。京都を舞台にした人間関係の機微が平野流に語られる。深いようで軽いような、独特の読後感だ。

 後半の二つは、平野氏の得意技である「レイアウト」を駆使した短編だ。『氷塊』は二段組みになっていて、上段は男子中学生の視点から、下段は不倫女性の視点から、同じ時間軸で話が進む。
 まずは上段を読破してから下段を読むもよし、上段と下段を並行して読むもよし。平野流の挑戦的な作品に仕上がっている。技巧に走るあまりに内容がおろそかにならないところもさすがだ。

 根本の「文学」は堅持しつつ、その見せ方にはさまざまなチャレンジを企てる平野氏。これからも、日本文学をリードしていくのだろう。



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