2013年6月13日木曜日

書評 東野圭吾『真夏の方程式』(文春文庫)

 ガリレオ湯川センセイの理科教室が、実に興味深い。寂れたリゾート地を舞台にした、哀しい事件の結末とは。

 またまた、母から借りた東野小説。母はついに、孫(私の子ども)への贈り物のついでに、宅配便に東野小説を同梱してくるようになった。
「わざわざ宅配便で送るようなもんでもないやろうに」
と思いつつ、さっそく読んでハマってしまう私も何だかなあである。

 本作は『容疑者Xの献身』、『聖女の救済』に続く、ガリレオ湯川の長編第3作目である。特に動機の面で、名作である『容疑者X』と通じるところがあった。ガリレオ湯川の理路整然とした立ち振る舞いや推理は(福山雅治のイメージも手伝って?)実にスマートだが、犯人の動機は実に人間くさい。このバランスがガリレオシリーズの真骨頂だ。
 犯人の使ったトリックは『容疑者X』には及ばないと感じたが、それも揚げ足取りか。ガリレオワールドを存分に堪能した。

 特に面白かったのは、湯川が恭平という小学生に、自然科学や理科について説明するシーンだ。小学生相手に本気でくってかかったり、自由研究で携帯をダメにしてしまったり、研究者ではなく教育者としての湯川がチラチラ出てくるのがおかしかった。
 東野氏に、番外編として「ガリレオ湯川センセイの理科教室」を書いてもらえれば面白いものができるかもしれないなあ。

 あらすじは以下のような感じ.

 舞台は、寂れた海辺の町。かつては夏の観光地としてにぎわった場所だったが、最近は衰退する一方。そんな海に面したかつてのリゾート地で事件は起きる。
 その町の沖合で、鉱物資源が採掘できる可能性が出てきた。その可能性を探るべく、開発団が派遣される。その中の一人に、ガリレオ湯川がいた。
 一方、美しい海を守るべく、反対派が組織される。よくある構図だ。その反対派の一人が今回のヒロイン川畑成美。成美の従兄弟である恭平が、夏休みに川畑家に泊まりにくる。恭平は小学生だ。この3人を軸に話は進む。
 川畑家が経営する旅館に宿泊した老人が死亡する。その死を巡り、さまざまな事実が次々に明らかになる。犯人は誰なのか。そしてその犯人の動機とトリックはいかに。



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2013年6月11日火曜日

書評 中島らも『今夜、すべてのバーで』(講談社文庫)

 酒好きは、酔い良い意味でも悪い意味でも必読。
 私は、小説は酒を飲みながら読むのが常なのだが、本書は飲みながらは読めなかった。

 小島容(いるる)という男が入院するシーンから話は始まる。小島はアルコールで肝臓をやられ、這うようにして病院までやってきた。そう、小島は重度のアル中だったのだ。
 その小島の治療の過程と、入院に至るまでのアルコール人生が、並行して語られる。人はいかにしてアルコールに溺れるか。そして、いったん溺れてしまうと、そこから抜け出すのがいかにしんどいか。これらが飄々と語られるところが、われわれ酒飲みの背筋をさらに冷たくする。
 とはいえ話は暗くはなく、むしろひょうきんでさえあり、思わず吹き出してしまうシーンがいくつもあった。このあたりが中島氏の才能なのだろう。この軽妙な語り口は、酒を飲まない人に酒の世界を知ってもらうのに最適かもしれない。

 アルコールは文化であるが、同時に毒でもある。読んでいるとき「酒は飲んでも飲まれるな」という諺が脳裏に浮かんできた。
 また「健康」ということについても、改めて考えさせられた。健康はもちろん大切だ(40になるとよく分かる)。だが健康が目的になってしまうと、それはそれで「何のための人生か」ということになってしまう。臨終の床で「オレは健康だったなあ」とつぶやいて息を引き取るのも悪くはないかもしれないが、健康は人生の手段であり、目的ではないはずだ。

 すべての酒好きに読んでほしい一冊。



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書評 桜井静香『ジムに通う前に読む本 スポーツ科学から見たトレーニング』(講談社ブルーバックス)

 ジム通いやランニングを始めようと思っている人は、実際に始める前にまずは本書を読むべし。きっと長続きするはずだ。

 本書を手に取る人は、多かれ少なかれジム通いに興味のある人だろう。もちろん、私もその一人である。そういう人たちが事前に知っておくとよい知識が、分かりやすく整理されている。
 本書は、ストレッチング(ウォーミングアップ)、筋トレ、ウォーキング、ランニング、エアロビ、スイミング、ピラティス、ヨガなどの各種トレーニングについて、その生理的効果や意味を解説するところから始まる。それに続けて、その効果を最大限に得るための注意点やコツが説明される。
 それぞれのトレーニングを「何のために」行うか、そして「どのように」行えば効果的かを説明した本というわけだ。運動を始めるときに、そういうことを知っているか知らないかの差は大きい。なぜなら、目的意識が生まれるからだ。「何のため」のトレーニングかを理解していれば、やる気も違ってくる。このことが、ジム通いを長続きさせてくれるはずだ。
 その他にも、ジムを選びの注意点やウェアについての豆知識など、「フムフム、なるほど」と思うことがたくさんあった。ただ、最後の章はトレーニングの仕方を説明した章であり「ジムに行き始めてから読む」ような内容になっている。

 実は、わが家から徒歩3分のところに、昨年、スポーツジムができた。プールも併設されており、5歳の娘がスイミングに通っている。そのプールへ娘の特訓(昇級テストがなかなか厳しいんです)のため何度か行き、ついでに約20年ぶりに泳いでみた。50 mも泳ぐとヘトヘトになったが、意外と泳げたことに調子に乗り
「オレも運動したいなあ。いつ始める? いまでしょ」
などと、一人でモチベーション(妄想)を高めていたところに本書を見つけたというわけだ。
 本書を読んで、ますますジムに行きたくなった。でも、行く時間を作れるかどうか自信がないんだよなあ。え?「ビール飲みながら本を読んでいる時間に行ったらどうですか」って? いや、そうなんですけどね…。



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2013年6月9日日曜日

予想の回顧 2013 マーメイドS、エプソムC、安芸S、アハルテケS

 日曜は阪神でマーメイドS。◎エーシンメンフィスはスタートから出していき、3番手に収まる。楽な感じで前に並びかけて直線へ。ところが
「さあ、いけっ」
という声も虚しく、マルセリーナにかわされるとズルズルと後退して9着に惨敗。昨秋の走りはどこへいってしまったのか。
 そして、アロマティコの猛追を振り切って2着に粘り込んだのが推奨穴馬のアグネスワルツ。でも、◎がこないことには意味がない…。

 東京ではエプソムC。
 ◎アドマイヤタイシは大逃げをうった馬を見る位置から。よい手応えで直線を向いたのだが、こちらも追い出してもサッパリ伸びず、10着に惨敗。連戦の疲れがあったのか。

 土曜の京都は安芸S。◎ナガラオリオンは後方から。キズマが気分よく逃げる流れで、後ろからの馬には厳しい展開か。ところが、ナガラオリオンは直線で外に出すと一気に伸び、最後は1馬身半差をつける完勝。ここでは力が違った。
 2着のタイセイファントムを押さえており、馬券は馬連をチョロッと取った。

 アハルテケSは◎タガノファントムが伸びそうで伸びず、4着まで。

 今週は4戦1勝だが、その1勝が1桁の馬連では大幅マイナス。依然として泥沼から抜け出せない…。

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2013年6月8日土曜日

2013 マーメイドS、エプソムC オレの予想を聞いてくれよ

 今週はGIはなく、夏競馬モードに入ってきた。阪神ではマーメイドステークス、東京ではエプソムカップと、中距離芝GIIIが行われる。

 マーメイドSはわりと最近できた重賞で…と思っていたら今年で18回目。時の経つのは早いものだ。
 どういう意図で作られた重賞なのだったのだろうかと調べてみると「1996年の牝馬限定の重賞路線の整備の一環」(Wikiより)ということらしい。そういえば、そんなことがあったような。

 さて予想にいってみたい。
 このレース、ハンデ戦になってからは荒れ模様である。とはいえ、人気薄どうしの決着は1回だけで、その1回以外は、1~4番人気と穴馬との組み合わせというパターンだ。
 本命は◎エーシンメンフィス。ここ2走は崩れているが、前々走は休み明けで牡馬混合のGII戦、前走は9着とはいえGIで0.5秒差と、敗因ははっきりしている。距離延長は歓迎だし、この相手なら。
 推奨穴馬はダートムーアアグネスワルツダートムーアは久々の芝レースで休み明けという前走で0.5秒差に踏ん張った。アグネスワルツは超久々の前走を叩いた上積みが見込める。

 エプソムカップは◎アドマイヤタイシを狙う。

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2013年6月7日金曜日

2013 安芸S、アハルテケS オレの予想を聞いてくれよ

 宝塚記念は残っているが、雰囲気はすっかり夏競馬。メインレースに条件戦が増えてくる時期だ。そんな阪神の土曜メインは準オープンの安芸ステークス。

 安芸というと広島のことだと思うのだが、なぜ阪神で安芸Sなのか。いつものごとく、JRA特別レース名解説に聞いてみた。

安芸は、山陽道にあった旧国名のひとつで、現在の広島県西半分にあたる。古くは「阿岐」と書いた。日本三景のひとつである「安芸の宮島」が有名。

……私の疑問にはまったく答えてくれなかった。残念。なぜ安芸Sがあるのに、備前特別や備中Sはないのか(あったらすみません)謎である。
 そんな私の疑問とは関係なく、安芸Sは古くからある伝統のレースだ。私の記憶では、ずっとダートの短距離戦である。重賞でも施行条件がころころ変わるなか、こういう条件戦もよいものだ。

 さて、予想にいってみたい。
 先週の結果を見ると、やはり降級した4歳馬が優勢だ。先週から降級したところなので、しばらくはこの傾向が続くだろう。それもあって、本命は◎ナガラオリオン。オープンでも掲示板の常連で、1400 mはベストの距離。相手にも恵まれたここは、サクッと決めてほしい。
 推奨穴馬はヤマノサファイア。穴というほどではないかもしれないが、他にこれといった馬もいないので、この馬を挙げておく。クラス2走目で展開も向きそう。

 アハルテケステークスは◎タガノロックオン。他の有力馬が重い斤量を背負うのところに、56 kgはやや恵まれた感。
 ちなみにアハルテケとは馬の品種だそうだ(以下も、JRA特別レース名解説より)。

アハルテケ(Akhal‐Teke)は、中央アジアで生産されている馬の品種。原産地はトルクメニスタン。毛は金色の光沢を放ち、「黄金の馬」と呼ばれる。持久力に富み、一日に千里を走るという中国歴史上の名馬「汗血馬」の子孫ともいわれる。なお、京王電鉄競馬場線「府中競馬正門前駅」の入り口には馬像が建てられており、待ち合わせスポットとして利用されている。

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書評 スコット・トゥロー『推定無罪 上・下』(文春文庫)

 針を刺すような緊張感がたまらない、法廷サスペンス。主人公は、浮気相手の殺害容疑で起訴された敏腕検事。虚々実々が入り乱れる法廷での駆け引きが、圧倒的な迫力で描かれる。それもそのはず、著者は数々の大事件を担当した元検事で、本書を書いた当時は大手事務所に属する弁護士だったのだ。

 検察側と弁護側の、法廷での駆け引きが存分に堪能できる。検察官も弁護士も、所詮は同じ穴に住む住民どうしだということがよく分かる。しかし同じ穴に住みながらも、好き嫌い、派閥、人脈などによる駆け引きがあり、そのせめぎ合いが裁判の結果となるのだ。本書では容疑者が検察官であるため、その色合いがさらに濃くなっている。
 裁判は意外なかたちで終わるが、その先に待つのは、アッと驚かせる結末。

 興味深かったのは、主人公である容疑者が本当に罪を犯したのかどうか、読者はおろか、弁護士にも誰にも知らされないところだ。主人公は殺したのか、殺していないのか。これが隠されているところが、読者を混乱させる。
 さらに、裁判の結果は、主人公が本当に犯人なのかどうかとは、どうやら別のところで決まってしまうらしいというところもミソだ。これがタイトル『推定無罪』の意味するところなのだろう。

 実は、私が本書を即買いしたのにはわけがある。
 本書は1988年に日本で刊行され(原作は1987年刊)話題になった本の、新装版である。1988年当時、高校生だった私は(何で見たのかは忘れたが)本書の書評を読み
「これは面白そうだ」
と、小遣いをはたいて、その頃はほとんど買ったことがなかったハードカバー版を購入したのだ。
 しかし、当時の私は受け付けなかったようで、途中で挫折したことを覚えている。まだ社会的な見識がなく、面白さがよく分からなかったのだろう。
 ところがいま読んでみると、一気に読破してしまった。私もいろいろ経験を積んで、こういう面白さが分かるようになってきたということか。ひらたく言えば、歳を取ったと言うことだ(トホホ)。
 そういう、自分の成長(老化?)を感じられたという意味でも、考えさせられた一冊だった。「若い頃に読んだ本を読み返してみると、新たな発見がある」という歳になってきたのかもしれない。



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【読書メモ】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)

 2020年のベストセラーをようやく読んだ。もっと早く読んでおくべきだった…。   スマホがどれだけ脳をハックしているかを、エビデンスと人類進化の観点から裏付けて分かりやすく解説。これは説得力がある。   スマホを持っている人は、必ず読んでおくべきだ。とくに、子どもを持っている人...