半世紀以上前に著された本だが、まったく陳腐には感じなかった。
明言こそしていないが、シュレーディンガーは
「生命も、結局は原子で組み立てられた機械だ」
という考えを持っていることが分かる。
本書では「遺伝」が純粋に原子の入れ替えであることが予言されている。そう、本書が書かれた時代には、遺伝子のセントラルドグマ(転写・翻訳・複製)は、まだはっきりとは解き明かされていなかったのだ。
後にワトソンとクリックがDNAの構造を明らかにし、それをもとに遺伝が物理的・化学的な現象であることが解明された。シュレーディンガーの予言の一部が証明されたのだ。
とはいえ「生命は機械なのか、それとも魂は存在するのか」という問いには、本書が書かれてから50年以上経ったいまでも結論は出ていない。
「生命は機械か否か」
本書はこの問いに、哲学ではなく科学でもって答えようとした、初めての書籍と言えるのかもしれない。
惜しむらくは、上にも書いたが、本書が執筆された時代には、まだ遺伝の仕組みが明らかにされていなかったことだ。シュレーディンガーがそれらの知見を知っていれば、どういう考えを巡らせただろうか。是非、聞いてみたかったところである。
ちなみにシュレーディンガーは、20世紀初頭に量子力学という分野を確立した物理学者の一人で、その第一人者といえる人物である。同時代にはアインシュタインもいた。アインシュタインの相対論が宇宙を舞台にした「巨大なもの」を扱った学問であるのに対し、量子力学は原子・分子サイズの「微細なもの」を扱った学問である。
ひらたく言えば、原子・分子サイズでは、われわれが目にするようなサイズの物の理論(ニュートン力学)は成り立たず、また別の理屈で物が動いているということを明らかにしたのが量子力学である(ひらたくないかな…)。
その量子力学の理論を生命に当てはめるとどうなるか。それを量子力学の第一人者が語ったのが本書であると言えよう。
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