どこの国でも、お隣の国との関係は難しいようで…
著者のトッド氏は、古くはソ連の解体を予期し、その後も金融バブルの崩壊やアラブの春を予言するなど、たぐいまれな分析力を持つ歴史学者である。そのトッド氏が、現在のEUでドイツが力を持ちすぎていることに警鐘を鳴らす。
簡単に言うと、ドイツは旧東欧圏の安価な労働力を使って物を作り、それを売ることによって莫大な利益を得て、まさに一人勝ちの状態である。またその結果、富める国とそうでない国の格差はますます拡大しており、その犠牲者がたとえばギリシャだというのだ。
そういう目で見ると、ウクライナ問題も、ロシアが一方的に悪いと片付けてはよくないことが分かる。またアメリカの凋落とドイツの台頭が同時に生じていることは偶然ではなく、このままではアメリカとドイツが(第二次大戦以来)再び衝突しかねないとまで論じる。
そこで鍵を握る国の一つはフランスであり(これは納得)、もう一つはロシア(これは意外)なのだそうだ。また、中国は近いうちに経済が破綻するので、それほど重きをおかなくてもよいという主張も斬新だ。
などなど、説得力のある主張が繰り広げられる。
日本についても言及されている。世界におけるいまの日本の立場、またこれからの日本の立場を考えるうえで、日本内部(中の人)からはなかなかでてこない発想が見られた。
たいへん勉強になりました。
ただし、断っておかねばならないのは、トッド氏はフランス人だということだ。フランスとドイツの関係は、言わずもがな。対立と融和を繰り返してきた隣国であり、その関係は微妙な緊張関係のうえに成り立っている。地続きである分、日本と韓国の関係よりも、さらに複雑だろう。
そのフランス人がドイツをこき下ろした本、という見方もできるのかもしれない。
さすがのトッド氏も、ドイツに対しては見方を誤ってしまったのか、それともトッド氏のいう通り、ドイツの台頭が世界を揺るがすことになるのか。
歴史が証明してくれるのを待つしかなさそうだ。
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