科学も人の営みであり、そこにはドラマがある
メンデルが遺伝の法則を見つけたのが1865年のこと。もちろんそれまでも「子は親に似る」ことから明らかなように、遺伝そのものの存在を疑う者はいなかった。
ではメンデルは何を見つけたのか。それは、たとえば豆の色(赤や黒)や形(シワのある、ない)などが、独立に受け継がれるということである。
その何がすごいのか。遺伝は「父と母からなんとなく全般的に」受け継がれるのではなく、個々の要素(形質)が、それぞれ一つずつ、受け継がれたり、受け継がれなかったりすることを示したのが大発見だったのだ。すなわち、親から子へ何らかの因子が伝わることによって、形質が受け継がれることが明らかになったのだ。ここではじめて「遺伝子」という概念が誕生した。
では、その遺伝子の正体は何なのか。今となってはそれがDNAであることは周知の事実なのだが、それが分かるまでには多くの科学者の努力が必要だった。
さらに、DNAがどのような仕組みで受け継がれるのか。また、DNAがどのような仕組みで形質を作り出すのか。それらの仕組みを明らかにしたのが、分子生物学である。
メンデルの発見から約100年で、それらの仕組みの基本はほぼ明らかになった。その歴史をひもときつつ、遺伝の仕組みを解説したのが本書である。
本書の特長は、明らかになった事実(遺伝の仕組み)を説明するだけではなく、その事実がどのような科学者によって、どのように明らかにされたかが書かれている点である。科学も人の営みであり、そこには数々のドラマがあることがよく分かる。分子生物学という分野がまだ若いから、一冊の本にまとめられたのであろう。
科学は決して無機質ではなく、科学の発展には科学者たちの血の通った営みが必要なことがよく分かる。少し難解だが、科学者の奮闘ぶりが感じられる良書である。岩波ジュニア新書に収録されているように、中高生に読んでもらいたい本だ。
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