日本人がメダルを取れないわけだ
2012年7月に放映された、NHKスペシャル「ミラクルボディー 持久力の限界に挑む」という番組を書籍化したもの。ケニアの元世界記録保持者である「皇帝」ハイレ・ゲブレシラシエ選手を中心に、それを打ち負かしたパトリック・マカウ選手や日本の実業団選手の協力を得て、彼らの持久力や筋肉を最新の科学装置で計測し、その速さの秘密を解き明かす。
ケニア・エチオピアを中心とする、東アフリカの高地出身のランナーが速い理由がよく分かった。日本人がメダルを取れなくなったのも、当たり前だわ。
標高2000 mを超える高地で生まれた子どもたちが、山道を裸足で駆け回る。小学校へ行くために、高地の山道を、毎日15 km以上走る。それに加えて、水などを得るために、さらに走る。日々の生活が、ハードな高地トレーニングそのものなのだ。その結果、十数歳の子どもたちが、過酷なトレーニングを積んだ日本人以上のスタミナ(最大酸素摂取量:VO2 MAX)を示す。
さらに、悪路を裸足で駆けるため、省エネ走法が身につく。これが、アフリカ勢がつま先着地で走れる理由なのだ。副題にある「つま先着地」vs「かかと着地」について、本書では「つま先着地」に軍配をあげている。世界的にも、つま先着地を支持する声が大きい。
「それなら、みんなつま先着地にすればいいやん」
私もかつてはそう思っていた。しかし、話はそう簡単ではない。私も約半年前にランニングを始めた当初は、つま先着地を試みていたが、ふくらはぎがパンパンに張ってしまうのだ。私は1カ月ほどでつま先着を諦めた。実際につま先着地で走ってみれば分かっていただけると思う。
たしかに、つま先着地のほうがスタミナのロスを防ぐことができる省エネ走法なのだが、それを支える筋肉が必要なのだ。それをアフリカ勢は、幼少時の悪路・裸足ランニングで身につける。しかも、高地トレーニングのおまけ付きだ。
そんなアフリカの子どもたちが、「キャンプ」と称する合宿所でトレーニングを積み、そこで勝ち残った精鋭たちが国の代表としてオリンピックなどに出てくるのだ。たとえて言えば、生まれたときから英才教育を受けたバイオリニストに、中学校の吹奏楽部でバイオリンを始めた叩き上げの日本人が挑むようなものだ。かなうはずがない。われわれは日本人なので
「最近の日本のマラソン選手は情けないなあ」
と思いがちだが、メダルが取れなくなったのは日本だけではない。かつては強豪だったヨーロッパの国や韓国勢なども、最近はからっきしだ。東アフリカ勢のひとり勝ちなのである。
おそらく、東アフリカの国々が裕福になって、高地に住む子どもたちが裸足で駆ける必要がなくなるまで、ひとり勝ち状態は続くだろう。
この素人予想を覆す日本人ランナーに出てきてほしいものだが、難しいだろうなあ…。
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