2012年3月1日木曜日

書評 内田康夫『砂冥宮』実業之日本社文庫

 超久々に読んだ浅見光彦シリーズ。
 内田さんの作品は『天河伝説殺人事件』を読んで
「これは面白い」
と感じ、そこから続けて2~3冊読んだのだが、それっきり読んでいなかった。今回は十数年ぶり(もしかすると20年超ぶり?)の内田小説ということになる。いつの間にか、光彦よりも私のほうが年上になっていた。月日の経つのは早いものだ。

 今回の舞台は横須賀と小松(石川県)。横須賀に住む須賀(すか)という老人が、小松の砂浜で死体になって見つかる。小松とは縁のないどころか、ほとんど旅に出ることすらなかった須賀が、なぜ小松に行き、なぜ殺されたのか。光彦が調査を進めるうち、須賀の過去と小松との間に、意外な接点が浮かび上がる。
 調査の過程で明らかになった「二人目、三人目」の男。しかし、犯人と思われる「四人目」の男は今どこにいるのか。いったい誰が四人目の男なのか…。
 というのが粗筋。

「光彦が歩けば新事実に当たる」という展開は昔と変わっておらず、懐かしかった。
「そんな都合のいい出会いがあってええの?」
というツッコミは、このシリーズには無用である。フィクションとは多かれ少なかれそういうものだ、ということでお茶を濁しておきたい。

 話の流れは非常に分かりやすく、ストーリーも閉じている。非常によくまとまったミステリーといえるだろう。
 小松には米軍基地があるが、ここが日本初の「基地反対運動」が起こったところだとは知らなかった。そういう日本史小話を巧みにフィクションに組み込むところが光彦シリーズの人気の秘訣なのだろう。もちろん、光彦の「セレブだけど素朴なハンサム青年」というキャラクターなしにはこのシリーズは成り立たないことは言わずもがなである。
 今回は、ヒロイン役の女性の活躍がほとんどなかったのが残念だった。



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