2012年3月8日木曜日

書評 桜庭一樹『赤×ピンク』ファミ通文庫

 前から気になる作家だった桜庭さん。何か一冊読んでみようと思った。『私の男』は娘を持つ父親として気が引けるというか、読む勇気がなく、『GOSICK -ゴシック-』シリーズも今さら1巻を読むのもどうかなあ…というわけで、初期のラノベにあたる本作を読んでみた。

 確かにラノベなのだが、決して軽いだけではなく、少女たちの思いが精妙に書かれている。面白い作品にラノベも純文学も関係ないことを再確認した。

 若い女性どうしが金網の中で戦うイベント『ガールズブラッド』。そこでは、毎晩のように、少女どうしの戦い(総合格闘技?)が繰り広げられる。そこの選手である3人の少女の物語を順に描いたのが本書だ。
 ここからも分かるように舞台設定や人物像はアブノーマルであり、倒錯した世界観が描かれている。この「倒錯」とうキーワードは、後の『私の男』などにつながっていくものなのだろう。

 3人の少女たちの共通点は「帰る場所がない」ことだ。この少女たちが帰る場所を見つけ、そこへ飛び込んでいく過程を綴った物語が本書である。彼女たちは、ある意味、死にものぐるいで生きている。しかし、その様子が軽妙なタッチで書かれていて、重苦しさはない。矛盾する表現だが、深いラノベである。

 また本書のもう一つの特徴は、桜庭さんの格闘技・空手マニアぶりが発揮されているところだ。戦いの場面や格闘家の心情がとてもリアルに書かれている。極真空手初段の経験がなければ、なかなかこうは書けないだろう。そんな桜庭さんには、是非、先日紹介した『格闘技の科学』を読んでいただきたい。

 「アブノーマル」「倒錯」という言葉に尻込みしないでほしい。あなただって、100%ノーマルというわけではないでしょう?



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