村上氏が、ランニングを切り口に作家人生をふり返った本。後書きで村上氏自身が「僕はこの本を『メモワール』のようなものだと考えている。個人史というほど大層なものでもないが、エッセイというタイトルでくくるには無理がある」とオシャレに説明している。さすが、上手いこと言うなあ。
村上氏は30歳で小説家としてデビューし、2年後に専業になる決意をした。そしてその翌年に、ランニングを生活に取り入れた。それ以来、四半世紀にわたって小説を書き続け、地面を走り続けてきた人生のメモワールが本書である。村上氏の作家人生とランナー人生は、ほぼ重なっているのだ。
本書が書かれたのは2005年から06年にかけてだ。40代後半(1995年頃)にランナーとしての(速く走るという意味での)ピークを過ぎて、タイムが落ちてモチベーションを下げていた村上氏が、再び走る気が湧いてきて、真剣なランニングを再開した時期だ。
練習内容はわりとサラッと書いてあるが、ちゃんと読めばかなりのトレーニングを積んでいることが分かる。「継続」を大事にして、ストイックにトレーニングをしていたようだ。小説も同じようなスタイルで執筆しているのだろう。
ランナー(特に長距離ランナー)なら、たびたび尋ねられるであろう「なんで、そんな苦しい思いをしてまで走るの?」という疑問。なかなか答えるのが難しいが、それを村上氏が上手に語ってくれた。
私も長距離ランナーの端くれとして、おおいに共感するとともに、多くの刺激を受けた。走る気持ち、人生を頑張る気持ち、感謝の気持ちが湧いてくる本だ。モチベーションが落ち気味のランナーには特にお勧めしたい。
また、村上氏が京都の生まれだとは知らなかった。一方的に親近感を感じてしまった。
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