いまや柳氏の代名詞ともいえる、D機関シリーズの第三弾。D機関で養成されたイケメンスパイたちが、世界中で諜報活動を繰り広げる。
時代は日中事変のさなか。今回の舞台は、ドイツに占領されたフランス、シンガポールのラッフルズ・ホテル、日本、そしてアメリカから日本へ向かう豪華客船。世界を股にかけた、スパイたちのシュールな活躍ぶりが堪能できる。
本作も短編集である。第一話は記憶を失ったスパイが登場。任務中に記憶を失うという、スパイとしては最悪の状況の中でどう立ち回るのか。スパイとしての本能が試される。
第二話はシンガポールのラッフルズ・ホテルでの殺人事件を扱った短編。いったい誰がスパイなのか。そのスパイはどういうかたちで事件に絡んでいるのか。謎が謎を呼ぶ。
第三話は、D機関のボスである結城中佐の過去に迫る一作。イギリスの新聞記者が結城の過去を追う。結城中佐の、謎に満ちた半生が明らかに!?
最後の一話は、前篇と後篇に分かれた、ちょっと長い短編。アメリカから太平洋を渡り日本へ向かう豪華客船。そこで、イギリスのスパイが殺害される。ところが、手を下したのはD機関のスパイではない。出し抜けを食らったD機関のスパイは、自らの正体を隠しつつ、事実を明らかにできるのか。
こんな短編が収められている。
「殺すな、そして、死ぬな」
という掟を課されたスパイたちの活躍ぶりは、何度読んでも面白い。スパイものにありがちな派手な活動が一切ないのが、本シリーズの特長だ。スパイたちの地味で、知的で、渋くて、クールな活動ぶりが、各話それぞれ斬新な切り口で語られる。
ひとたび読み始めれば
「地味なスパイの話なんて面白いの?」
という疑問など吹っ飛んでしまうだろう。
本作に刺激を受けて
「オレもスパイに転職できないか」
と思った私は、マイナビやリクナビで検索してみたのだが、スパイは募集されていなかった。残念。
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