水木氏の半生については、いろいろ小耳には挟んでいたが、これほど凄まじい人生を送ってきた人だったとは知らなかった。第二次大戦では最前線のラバウルに送られ、いつ命を落としてもおかしくない生活を送る。片腕を失い、命からがら復員した戦後は、食うや食わずやの生活が長く続く。紙芝居の原作や貸本マンガを描いて、何とか口を糊する日々。同じ業界の仲間たちは次々と蒸発していく。
最終的には週刊誌の連載を得て「ゲゲゲの鬼太郎」をはじめとするヒット作を生み出し、人気漫画家となったのは周知の通りだが、そこまでの道のりたるや、「壮絶」「波瀾万丈」という言葉がピッタリである。
しかし、その壮絶な人生を飄々と語ってしまうところが、水木氏の人徳というか、楽天的な性格のなせる技なのだろう。本書を読んでいると、戦争で片手を失うことくらい、何でもないことのように思えてしまう。
本書も含め、自伝は成功した人が書くものだ。だから
「苦労は買ってでもしろ」とか「貧乏を恐れるな」
とか言われても
「アンタは成功したから、そんなことが言えるのでは?」
という疑問がついつい湧いてしまう。
ところが、本書ではそういう疑問がまったく生じなかった。苦労や貧乏を何とも思わない、水木氏の楽天的な生き様がそうさせるのだろう。人生に対して、とにかく前向きで楽天的なのだ。
エラい人の書いた、アリガタい言葉が詰まっている本よりも、よほど骨身にしみた。
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