「よし、読んでみるか」
と思っていたのだが、そこでふと思いついた。
「よく考えたら『ノルウェイの森』も『海辺のカフカ』も読んでないやん」
というわけで、まずは『ノルウェイの森』から読んでみようと購入。これが面白かった。
一人称で語られる小説でありながら、三人称的な雰囲気が漂う。それは、主人公であるワタナベの物の見方、感じ方が非常に分析的であり、そのワタナベの一人称でストーリーが語られるからである。
序盤から中盤にかけては、淡々と話が進む。いや、淡々と進んでいるように思わされてしまう。読み終えてみると、淡々と進んでいると思っていた話の裏には、せつなく、熱く、重い感情や出来事がたくさん潜んでいたことに気づかされるのだ。
下巻の後半は、それまでの淡々とした雰囲気が一変する。分析的に物を見て、世間や他人や自分のことを理解しているつもりだったワタナベが、自分が何も分かっていなかったことに気づき、揺れ動くためだ。
「あなた意外にいろんなこと知らないのね」
というワタナベに向けられた言葉が(違う文脈から出てきた台詞なのだが)、ワタナベのことを端的に言い表している。そう、ワタナベは、いや「僕」は何も分かってはいなかったのだ。
40歳を前に、物事をいろいろ分かった気になって日々を淡々と送っている私にとって、グサッとくると同時に、新たな活力を与えてくれる小説だった。
「生は死と切り離されたものではなく、生は死を内包したものだ」ということを思い出させてもらった。日々に埋没していると、ついついそのことを忘れてしまう。
本書の魅力を、本書を未読の人に伝えるのはたいへん難しい。月並みな言葉だが、まずは読んでみてほしいとしかいいようがない。
本書を読んだ人どうしであれば、あのシーンやこのシーン、あのテーマやこのテーマについて、いくらでも語り合うことができるだろう。
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