2013年11月28日木曜日

書評 伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』(創元推理文庫)

 何を書いてもネタバレになりそうで、書評を書くのを躊躇していたのだが、ある事実を知り、書くことにした。

 映像化不可能。小説の醍醐味を堪能した。

 二つの話が並行して進んでいく。
 一つは「現在」。大学に入学するために一人暮らしを始めた「僕」の話だ。「僕」は引っ越し先のアパートで、河崎という隣人から書店を襲うこと(書店強盗)を持ちかけられる。
「そんな馬鹿な…」
と思いつつ、なぜか参加してしまう僕。
 もう一つはその「二年前」の話。河崎のモトカノである「わたし」と、そのイマカレのドルジ、そして河崎。この3人の物語だ。
 この「現在」と「二年前」を行ったり来たりしつつ、ストーリーは進んでいく。そして二つの話が交わるとき、すべてが明らかになる。

 という、ミステリーにありがちなパターンの構成なのだが、ありがちなのは構成だけである。アッと驚く大逆転で、話はストンと落ちる。お見事としか言いようがない。
 また至る所に伏線が張ってあり、ラストにはそれが見事に回収されるところも気持ちがよい。読み終えて
「なるほどねぇ」
と唸ってしまった。感心のあまり、読後に唸ってしまう本も珍しい。

 で、急に書評を書こうと思った理由。それは、冒頭の
「映像化不可能。小説の醍醐味を堪能した」
にある。映像化不可能のトリックがこの小説のキモなのだ。
 だがしかし、何と、本書は映画化されているというではないか…。マジっすか。いったいどうやって映画にしたのだろうか、気になって仕方がない。
 映画を見たら、報告したい。

 追記:映画見ました。



【送料無料】アヒルと鴨のコインロッカー [ 伊坂幸太郎 ]
【送料無料】アヒルと鴨のコインロッカー [ 伊坂幸太郎 ]
価格:680円(税込、送料込)(楽天ブックス)

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

2013年11月27日水曜日

書評 森見登美彦『有頂天家族』(幻冬舎文庫)

 京都好きは必読。人間界で暮らす狸一家のハチャメチャ、ほんわかストーリー。

 古来、桓武天皇の時代から、京都には狸と天狗がおり、人間に混じって生活しているのだという。そのうち、下鴨の糺の森に暮らす狸一家の物語だ。
 主人公は下鴨矢三郎という狸。亡き父の残した四兄弟の三男坊である。そこに、個性豊かな天狗や人間が絡み合い、チャンチャンバラバラの大活劇を繰り広げる。
 下鴨一家の師匠である赤玉先生は、かつての大天狗の面影もなく、プライドばかり高い偏屈な天狗となっている。その赤玉先生にさらわれて、人間から天狗に育てられたのが、弁天という超絶妖艶天狗。このクールなエロティックさには、私もKOされた(おいおい)。さらに、下鴨家のライバルである夷川家が、京都の狸界を牛耳ろうと策を巡らす。
 これらの主要登場人物(狸?)が、みなキャラが立っている。マジメな狸もいれば、阿呆な狸、腹黒い狸もいる。でも、よく考えてみれば、これって人間界も同じかも?…

 弱い立場の者たちが、強者からの圧力など意に介さず、生きたいように生き、大暴れするという構図が、夏目漱石の『坊ちゃん』を連想させた。「狸」という言葉がそうさせたのかもしれない。

 森見氏は京大農学部出身の小説家ということは知っていたのだが、初めて著書を読んでそれも納得。京都のちょっと隠れた魅力が伝わってくる作品だった。外部から京都を見る、ガイドブック的視点では作れない作風だろう。長年、実際に京都に接してきたからこそ書ける、ディープな京都を垣間見させてくれる。またそれが
「これが本当の京都なんどす」
と、押しつけがましく語られるわけではない。東華菜館や出町柳商店街など、京都に暮らす人には「!」と来る場所が絶妙のタイミングで登場するのがニクい。
 京都好きの人はもちろんだが、京都に住む人にもぜひ読んでもらいたい。

 ちなみに私の上司は、大学入学時に東北地方から京都に出てきて以来、40年以上京都で生活している。その上司が
「森見登美彦はええぞ~。お前らも読め」
と、飲む度に勧めてくるワケがよく分かった。



【送料無料】有頂天家族 [ 森見登美彦 ]
【送料無料】有頂天家族 [ 森見登美彦 ]
価格:720円(税込、送料込)(楽天ブックス)

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

2013年11月24日日曜日

予想の回顧 ジャパンカップ、京阪杯 2013

 今週はジャパンカップ。
 ◎ジェンティルドンナは好発を切り、3、4番手でガッチリ押さえ込む。直線では内を突き、残り200 m手前で先頭に立つ。「ちょっと早いか」とも思ったが、そのまま押し切って見事に1着。完勝だった。
 対抗○エイシンフラッシュは、何とハナを切った。おそらく予定外だったのではないだろうか。これではタメが効かず、10着に惨敗。
 頑張ったのが推奨穴馬のトーセンジョーダンジェンティルドンナと同じような位置取りでレースを進め、直線では2頭で抜け出してジェンティルドンナに食い下がる。馬連を押さえていた私は、当然
「そのまま~」
トーセンジョーダンに声援を送ったのだが、最後はデニムアンドルビーが飛んできて3着に惜敗。馬券は外れた。デニムアンドルビーの末脚には驚いた。秋華賞→女王杯→JCの過密ローテーションで馬体重も減。まったく馬券対象外だった。

 土曜は京都で京阪杯。
 ◎ラトルスネークは懸案のスタートを無難に出たが、1200 mではついて行けず、後方から。4コーナーでは外を回して最速の上がりで追い込んできたが、5着まで。前に行った3頭がそのまま1~3着を占める展開では厳しかった。流れが向けば1200 mにも対応できそうだが、1400 mのほうがベターか。
 勝ったのは推奨穴馬のアースソニック。昇級初戦とはいえ、春はオープンで善戦していた馬。7番人気は美味しかった。

にほんブログ村 競馬ブログ 競馬予想へ
にほんブログ村

2013年11月23日土曜日

2013 ジャパンカップ オレの予想を聞いてくれよ

 今週はジャパンカップ。JRAで最も賞金の高いレースである。ご存じの通り海外の馬を招待するレースなのだが、今年の海外からの参戦はたったの3頭。しかも、かなり小粒なメンバーである。
 これを受けて「もう招待する意味なんかないんじゃねーの?」とう意見がチラホラ見られるが、それは極論だろう。今年のメンバーは確かにトホホだが、昨年、一昨年はその年の凱旋門賞馬が参戦しているし、ここ数年はそれなりのビッグネームが来日していた。今年だけを見て判断するのは早計だと思う。

 さて、今年のレース。今年は外国馬は無視してよいだろう。対する日本馬も、3強を除けば手薄なメンバーである。下馬評通り、3強の争いになると見た。
 3強の中から、本命は◎ジェンティルドンナ。今年は調子が悪いような印象があるが、ドバイで2着、宝塚記念3着、天皇賞・秋2着なのだから、ちゃんと結果を残している。叩き2走目で上積みも見込めるここは、人気に応えてくれるだろう。
 相手をどうするか。3強の残り2頭に流してもよいのだが、それでは芸がない。どちらかに絞りたい。対抗は○エイシンフラッシュ。ダービーを制しているが、本質的には1800~2000 m向きの馬なので、2400 mがどうか。実際、昨年のこのレースでは、いい感じで追い出されたが、ガス欠のような形で9着に敗れている。距離は心配だが、このメンバーなら。
 3強の残り1頭のゴールドシップは、時計勝負は向かないという理由で評価を下げる。ただ、この馬とはこのところ馬券の相性が悪く、私が本命に推せば沈むし(天皇賞・春、京都大賞典)、蹴飛ばせば勝つ(有馬記念、宝塚記念)。とすれば、今回は来てしまうのか…。
 馬券はジェンティルドンナ-エイシンフラッシュの馬連でガッツリ勝負。
 しいて挙げるなら、推奨穴馬はトーセンジョーダン。叩き3走目でガラリ一変して、一昨年の状態に戻れば怖い。

にほんブログ村 競馬ブログ 競馬予想へ
にほんブログ村

2013年11月22日金曜日

2013 京阪杯 オレの予想を聞いてくれよ

 今週で京都・東京開催は終了。来週からの阪神・中山開催で今年も終わりである。早いものだ(毎週「早いものだ」と書いている気がする)。

 今年の京都最後の重賞は京阪杯。京阪とは京阪電鉄のことだ。京都競馬場の最寄り駅が京阪の淀駅なので、重賞となっているのだろう。この淀駅、いまは高架になって競馬場に隣接しているが、その前はもう少し離れたところにあった。競馬場と駅を結ぶ道には炉端焼きやお好み焼きなど、いい匂いを発する店が軒を連ねていたものだ。
 駅の移動の話は大昔からあったのだが、それらの店の反対で、なかなか実現しなかったと聞いた。駅の移動が終わったいま、それらの店はおそらく商売をたたみ、その代わりに、競馬場内に入った全国チェーンの飲食店が競馬ファンの胃袋を満たしているのだろう。寂しいことだ(自分は何も貢献していないのに勝手な話だが)。

 このレース、2006年に1200 mとなってから7回目を迎える。ようやく、1200 mと聞いても「?」と思わなくなってきた。
 本命は◎ラトルスネーク。前走のスワンSでも本命に推したのだが、出遅れたうえにスローペースになり、出番はなかった。今週は最終週だし、差しも決まるだろう。前走の鬱憤を晴らしてほしい。
 推奨穴馬はアースソニックアドマイヤセプター

にほんブログ村 競馬ブログ 競馬予想へ
にほんブログ村

2013年11月21日木曜日

書評 藤原正彦・小川洋子『世にも美しい数学入門』(ちくまプリマー新書)

 理系の極致である数学者の感性と、文系の極致である作家の感性が、こんなに似通っているとは。

 数学者である藤原正彦氏(本書を刊行した半年後に『国家の品格』で大ブレイクした)と、『博士の愛した数式』で著名な作家の小川洋子氏が、数学をテーマに対談したものをまとめた一冊。
 数学者と作家。厳密な論理でガチガチの数学の世界と、虚構の物語を紡いでいく小説の世界。一見、真逆の世界に見えるが、本書を読むとそうではないことが分かる。数学者と作家は、同じ感性を持っており、根本的には同じ人種なのではないかと思えてくる。

 その共通の感性とは、タイトルにもあるとおり「美」に対するものだ。本書は「数学入門」なので、おもに数学的な美について語られる。
 たとえば三角形の内角の和。三角形の内角の和は、必ず180°になる。これを藤原氏も小川氏も「美しい」と感じ、その美しさについて、あれやこれやと話を重ねていく。藤原氏の表現を借りると

百万年前も現在も、そして百万年後もそう(評者注:三角形の内角の和は180°)だと。地球が爆発してなくなってもそうなんです。こんな真理は、ほかにこの世の中にないんですよ。どんなことだって、その場限り、せいぜい時代の産物ですよね。こういう永遠の真理っていうのは数学以外には存在しませんから、そういう美しさがあるわけですね。どうもがいても180°ということから逃れられないんですね」

という具合だ。他にもさまざまな数学的美の例が出てきて、二人で
「すごいよね~」
「美しいですね~」
と語り合う。この二人が「美しい」と感じる感性が、驚くほど似ているのだ。

 本書を読むと、その会話の場に、自分もいたような気になり
「いやぁ、数学って本当にいいもんですね~(水野晴郎風)」
と、隣の人に語りかけたくなってしまう、
 ただし本書は、至るところに『博士の愛した数式』のネタバレが出てくるので、まずは小説を読んでからこちらを読むことを強くお薦めする。

 以下は、本書とはあまり関係ない、私の個人的な考えである。
 私が数学的美を感じるのは幾何だ。混沌としている問題が、補助線を一本引くことにより、一瞬にして明らかになる。このドラスティックな展開とパズル的な要素に美しさや楽しさを感じる。
 一方で私は、数学が絶対的な真理だとはなかなか信じられない。藤原氏は、宇宙のどこへ行っても1+1は2であり、数学は絶対的真理なのだという。
 本当にそうなのだろうか。私は、宇宙の果てには、1+1は2ではない世界があり、地球とは違う公理体系が存在するような気がしている。宇宙はそんなに狭くないと思うのだ。もしくは、この宇宙では1+1は2でも、違う宇宙に行けば(宇宙は一つではないという説が最近では有力らしい)1+1は2ではないのではないか。そんな風に考えている。

「もしそういう世界があるとして、そういう世界の生物と出会ったとしたら、分かりあえる方法があるのだろうか。なさそうやなあ…」
なんてことを、幼少の頃に考えていたのを思い出した。
 みなさんの意見はどうだろう。宇宙の果てまで行っても、別の宇宙へ行っても、1+1は2なのだろうか。



【送料無料】世にも美しい数学入門 [ 藤原正彦 ]
【送料無料】世にも美しい数学入門 [ 藤原正彦 ]
価格:798円(税込、送料込)(楽天ブックス)

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

2013年11月19日火曜日

書評 吉成真由美『知の逆転』(NHK出版新書)

 1000円以下でこんなビッグネームのインタビュー集が読めるのは日本だけではないだろうか。

 現代の世界的知識人の大御所6人にインタビューし、そのやりとりをまとめた一冊。その6人とは

ジャレド・ダイアモンド
ノーム・チョムスキー
オリバー・サックス
マービン・ミンスキー
トム・レイトン
ジェームズ・ワトソン

という「これでもかっ」という顔ぶれ。内容もさることながら、まずはこれだけのビッグネームを揃えたことに驚く。
 この6人のうち、本書に生年の書いていないトム・レイトンを除く5人は、1920~30年代の生まれ。年齢的にも、大御所と呼ぶにふさわしいメンツである。本書を読む限り、みんな頭脳はまだまだ明晰だ。少し前に
「行動や考えを自由に選択できるということが、長寿命につながる」
という本があったが、まさにその生き証人といえよう。みんな、とにかく発想や行動が自由なのだ。

 各人の専門分野は、歴史、言語、脳科学、人工知能、数学(IT)、分子生物学と、てんでバラバラである。しかし、多くの点で意見が一致しているところが、とても興味深い。たとえばインターネット。インタビュアーの吉成氏は
「インターネットが人のつながりを変えて世界を変える」
的な答えを期待しているフシがあるのだが、返ってくる答えは意外にそっけない。
「たしかに便利だし、人のつながりも変化するのだろうけれど、本質的なことではない」
という感じの反応なのだ。インターネットはあくまでもツール(手段)であるということなのだろう。
 もう一つの例は宗教。(おそらく)6人とも無宗教なのだ。
「へえ、それが?」
と思ってはいけない。彼らは欧米人なのだ。日本人のように、初詣に行ったり、クリスマスを楽しんだりしつつ「宗教は信じていません」などという、ヤワな立場ではないのである。科学は宗教に取って代われるものではないし、多くの人々にとって宗教は必要であるとしつつも、自らは無宗教であるという意見が多いのだ。彼らの年齢も考えると、驚くべき一致である。
 もう一つ、「がんは近々克服できる」という見解が複数見られたことにも驚いた。
 もちろん、意見が異なることもいろいろあるのだが、それは本書を読んで、各人の見解の違いを楽しんでもらいたい。

 最後に、インタビュアーであり、本書をまとめた吉成氏について触れておきたい。
 本書の端々から、吉成氏の博識ぶりとバイタリティがにじみ出てくる。吉成氏のことは本書で初めて知ったのだが、おそらく相当な勉強家で、キレる人なのだろう。吉成氏なくしては、本書の成功はなかったのだと思う。
 ただ、その溢れる情熱が、大御所たちの見解を読者に伝える際のフィルターになっている気がしないでもない。もちろんインタビュー集なのだから、われわれ読者は聞き手を通して情報を得るのであり、やむを得ない部分もある。しかし、吉成氏の色が少し濃く出過ぎているようにも感じてしまう(吉成氏の才気煥発ぶりへの嫉妬もあるのかなあ)。
 そうか。吉成氏も含めた、7名の知識人のコラボレーションと思って読めばよいのだ。



【送料無料】知の逆転 [ ジャレド・ダイアモンド ]
【送料無料】知の逆転 [ ジャレド・ダイアモンド ]
価格:903円(税込、送料込)(楽天ブックス)

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

【読書メモ】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)

 2020年のベストセラーをようやく読んだ。もっと早く読んでおくべきだった…。   スマホがどれだけ脳をハックしているかを、エビデンスと人類進化の観点から裏付けて分かりやすく解説。これは説得力がある。   スマホを持っている人は、必ず読んでおくべきだ。とくに、子どもを持っている人...