2014年12月11日木曜日

映画評 『アーティスト』

ウィンクを「飛ばす」とは、こういうことを言うのね


 2011年のアカデミー賞で作品賞を初め5部門を受賞した映画。無声映画なので
「映画通にしかその面白さは分からないのではないか」
とちょっと敬遠していたのだが、とんでもない間違いだった。

 役者陣、特に主演男優・女優の演技には脱帽だ。台詞は聞こえなくても、体の動き、表情、目の動きなどから、ビシバシとメッセージが伝わってくる。主演男優・女優とも「映画の中の役者」の役なので、演技をする人の演技をしなければならないわけだが、これが何の違和感もなく演じられている。参りました。
 特に主演女優のウィンクと投げキッスには魂を奪われた。ウィンクを「飛ばす」という表現があるが、なるほど、これがそうなのか。こんなウィンクや投げキッスを飛ばされたら、骨抜きになること請け合いである。だれか私に飛ばしてくれないだろうか。

 最後のシーンもよかった。
「with pleasure」
決め台詞に使ってみたいなあ。

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2014年12月9日火曜日

書評 松本博文『ルポ電王戦 人間vs.コンピュータの真実』(NHK出版新書)

おそらく、コンピュータはすでに人間を上回っている。


 まずは電王戦について少し説明を(ご存じの方は読み飛ばしてください)。
 電王戦とは、将棋のプロと将棋ソフトが勝負する大会で、2014年で第3回を迎えた。第1回はかつての名棋士、米長邦雄がソフトに敗れた。第2回は5名の棋士と五つのソフトの総当たり戦となり、人間側はすべて現役のプロが登場。しかし結果は、人間の1勝3敗1引き分け。
 そして迎えた第3回。プロはA級クラスを筆頭に期待の若手も含めた5名の精鋭を送り込んだ。さらに「ハードは統一のものを使用」「ソフトを事前に棋士に提出」「それ以降、ソフトの改変は禁止」など、人間側に有利なルールが新たに設けられた。
 しかし、この条件なら棋士側が圧倒するだろうという大方の予想を裏切り、結果は人間の1勝4敗。最強クラスこそ出場していないものの、それに次ぐレベルの棋士までやられてしまった。

 この様子をルポとして書いたのが本書。著者の松本氏は東大将棋部出身で、ITの発展に伴って将棋界が変わっていく様子を丹念に追ってきた将棋ライターだ。いまのように話題になる前から将棋ソフトについても取材を重ねており、開発者たちとの縁も深い。本書を書くにはうってつけの人物といえよう。
 電王戦を扱った書籍はたくさん出ているが、その多くは棋士側にスポットが当てられており、ソフト開発者側は悪役とまでは言わなくても、相手側として書かれている。
 しかし本書では、ソフト開発者側にも十分にフォーカスし、その情熱や努力、私生活にまで踏み込んで描写している。これまでやや置き去りにされてきたソフト開発者側を丹念に描き、彼らこそがむしろ電王戦の主役であることを明らかにしたと言えよう。

 ソフト開発者側の詳しい様子は本書で初めて知ったのだが、これがなかなか興味深い。やはり、オタクっぽい感じの人が多い(笑)。また、かなりオープンなコミュニティであることには驚いた。プログラムの中身を全て公開したり、ソフトの思考法を検討し合ったりしているらしい。ソフトの開発というと、狭い部屋で一人で黙々と夜を徹して行うようなイメージだったのだが、そうではないらしい。
 このように、将棋ソフトのコミュニティも棋士のコミュニティと似ていて「仲はよいけど、ライバル」的な関係なのが興味深かった。

 そして本書を読んだ結論としては、おそらくソフトはすでに人間を上回ったと思う。いきなり「さあ、対局してください」ということになれば、羽生さんでも負けてしまうのではないか。事前にソフトの弱点などを十分に研究して、ようやく五分というところかもしれない。
 しかし、それで将棋の魅力が色あせることはないだろうとも思う。人間vs.コンピュータは、人間vs.人間とはまた違った文化を創り出していくに違いない。

 将棋ソフトの次のパラダイムシフトは「ルールだけを教える」ソフトの開発だろう。現在の将棋ソフトは、人間の築いてきた膨大な棋譜がベースになっている。それを取っぱらい、ルールだけを教えて独自の差し手を学習させていくのだ。それが実現すれば、新たな定石が山のように生まれてくるだろう。
 いまはまだ夢の段階だが、あっという間に実現してしまうのかもしれない。




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2014年12月8日月曜日

書評 宮部みゆき『ソロモンの偽証』(新潮文庫)

「こんな中学生たちがいるわけないやろ」と思いつつ、グイグイ引き込まれた。


「いつかは読まねば」と思っていた宮部氏の長編。積ん読が溜まっていたので買い控えていたのだが、妻が買ってきたので読み始めたところ…やめられない止まらない。かっぱえびせん状態である。

 ある一人の目立たない中学生の死の真相を、生徒たちが校内裁判で明らかにしようとするのだが「こんな中学生がいるわけないやろ」という生徒が次々に登場する。とはいえ決して荒唐無稽ではなく、圧倒的な推進力と、徐々に真相に近づいていく展開にページをめくる手が止まらない。

 宮部小説には必ず登場する「胸くその悪い連中」が本作にも出てくる。宮部氏はこういう連中を書くことにかけては、天下一品だ。あんないい人に、どうしてこんな連中が書けるのだろう。
 今回は、そういう連中が何人も独立に現れるものだから、いつにも増して「うへぇ」となってしまうのだが、それでも引き込まれてしまうのが宮部小説。一つ読み終えると、しばらく遠ざかってしまうのは、そのせいかもしれない。
 最後は全てが明らかになり、中学生たちのその後を描いたスピンアウト短編もオマケについている。ご馳走様でした、満腹です。
 やめられない止まらない、ついつい食べ過ぎてお腹いっぱい。かっぱえびせん小説だ。

【粗筋】
 ある中学生の死の真相が、外堀から埋められるように、少しずつ明らかになっていく。
 誰がどう見ても自殺と思われた事件の裏には何があったのか。少年が殺されるのを見たという告発文、その告発文がマスコミに漏れて濡れ衣を着せられる担任の教師、告発文で殺人者呼ばわりされた超悪ガキ中学生。何が本当で何が嘘なのか。
 大人たちは体面を保つのに精一杯で何も明らかにしてくれない。事件のあった中学校の生徒である涼子は、校内裁判を行うことを決意する。反対する大人たちを説き伏せて裁判の開催を取り付けたのだが、それは事の始まりに過ぎなかった。事件の真相は、どこにあるのか。

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2014年12月7日日曜日

【予想の回顧】チャンピオンズC、金鯱賞、ステイヤーズS、逆瀬川S(2014)

 チャンピオンズCの本命は◎コパノリッキー。1番人気になるだろうとは思っていたが、1頭だけ抜けた人気になるとは。
 スタートは普通に切ったのだが、道中は中団の後方。想定外だ。
「これはハイペースなのか?」
と思っていると、1000 mは1分2.3秒とむしろスロー。これはマズイ。しかも4コーナーでは大外へ。
「これで勝てば相当だな」
という期待(妄想?)は崩れ去り、12着に沈んだ。1番人気が本命でこの結果だと、ヘコみますなあ…。
 敗因は行けなかったことに尽きるのだろうが、それではなぜ行けなかったのだろうか…。馬に聞くしかないのか。
 前に行った馬が上位を占め、ホッコータルマエが見事に昨年の雪辱を果たした。ドバイで体調を崩したそうだが、よく立て直した。陣営の努力にも賛辞を送りたい。

 土曜は中京で金鯱賞。
 ◎エアソミュールは中団のやや前につけるが、かなり行きたがっている。これはマズイ。直線では前走と同じく馬群を割ってきたが、前走ほどの脚は使えず、3着まで。折り合いを欠いたのが響いた。
 勝ったラストインパクトはレコードで1馬身半の差をつけた。距離は保つだろうし、有馬記念でも勝負になるかもしれない。馬券は馬連をだったのでハズレ。

 中山ではステイヤーズS。
 ◎スズカデヴィアスは中団から脚を伸ばすが前に迫るところまではいかず、4着まで。上位とは決め手の差か。馬券はワイドで買っていたので、惜しかった。
 勝ったのは昨年に続いてデスペラード。横山典騎手はこのレース5勝目らしい。長距離線は騎手で買えということか。

 阪神は逆瀬川Sがメイン。
 ◎スズカヴァンガードは単独2番手に収まる。期待通りの展開だったが、最後は抵抗及ばず4着止まり。ここもワイドで買っていたので、あと少しだったのだが…。

 馬連で買えば軸馬が3着、ワイドで買えば4着と、絵に描いたような惜敗が続いた…。

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2014年12月6日土曜日

【予想と与太話】チャンピオンズC(2014)~新王者へ~

 ジャパンカップダートが名前と場所を変えてチャンピオンズCとなった。招待レースをやめたため名前を変えたのだが、その初年度からアメリカから自費でインペラティヴが参戦してくれた。アメリカの馬にとって、左回りはやはり魅力なのだろう。
 中京にGIが増えたのはよいことだと思うが、他のローカル競馬場にもGIを作れないものだろうか。JBCのように持ち回りのGIを新設するのも面白いと思う。

 レースにいってみたい。
 フェブラリーSの勝ち馬に、上昇中の4歳勢と歴戦の古馬陣が挑むという構図。本命は◎コパノリッキー。フェブラリーSを最低人気で勝った後、GIを3戦して1着、2着、1着。フロックではなかったことを示した。ここも勝って、新王者の地位を確立させてほしい。スムーズに先行できれば。
 本命が1番人気なので相手を絞りたいのだが、これが難しい。4歳ではインカンテーション、古馬ではローマンレジェンドを厚めに押さえる。
 推奨穴馬はベストウォーリアワイドバッハ。前者は距離が保てば。後者は武蔵野S勝ち馬なのに人気がない。

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2014年12月5日金曜日

【予想と与太話】金鯱賞、ステイヤーズS、逆瀬川S(2014)~スズカ祭り~

 師走に入り、今週から阪神・中山・中京開催が開幕。今年も残り一開催。なるべくマイナスを減らして一年を終えたいものだ。

 ところで、馬券道場が今年で終わってしまうらしい。馬券をたくさん買う人が有利ではない催しなのでけっこう好きだったのだが、残念だ。
 この馬券道場によって、私の馬券スタイルに変化があった。他のレースでも単勝を買うようになったのだ。お財布の事情により馬券代が少なくなっていくなか、単勝100円、200円の1点勝負でレースを楽しむことを覚えた。大レースに集中して投資するのもよいが、多くのレースに参加するのも面白い。下級条件馬や障害馬にも(そういうクラスにこそ)個性的な馬がたくさんいるものだ。こういう楽しみ方を教えてくれた馬券道場には感謝したい。

 そんな土曜は中京で金鯱賞が、中山でステイヤーズSが、阪神で逆瀬川Sが行われる。
 金鯱賞はこの時期に移ってから3回目。昨年はここをステップに、ウインバリアシオンが有馬記念で2着に入った。さて、今年はどうだろうか。

 レースにいってみたい。
 毎日王冠と京都大賞典の勝ち馬が参戦。普通なら、迷わず天皇賞・秋かJCに向かうと思うのだが、珍しいことだ。名門厩舎(角居厩舎と松田博厩舎)だけに余裕があるのか、それとも何か思惑があるのか。

 本命は、毎日王冠の勝ち馬◎エアソミュール。今年の毎日王冠のレベルは低かったのかもしれないが、決して恵まれた勝ち方ではなかった。狭いところを抜けてきた脚には見どころがあったように思う。折り合い一つ。
 推奨穴馬はカレンブラックヒル。穴というほどではないかもしれないが、開幕馬場ですんなり行ければ。

 ステイヤーズSは思い切って◎スズカデヴィアスが本命。長距離適性があれば、この相手なら。
 逆瀬川Sも穴っぽいところから◎スズカヴァンガードが本命。上昇度を買う。スズカ祭りを期待したい。

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2014年12月3日水曜日

書評 森博嗣『科学的とはどういう意味か』(幻冬舎新書)

科学者が、科学的な思考法の重要性を、「非」科学的に書いた本。


『すべてがFになる』のドラマ化で再ブレイク中の森氏が
「科学的に物事を考えないと損する、というか危険だよ」
ということを述べた本。
「科学的思考法」というとちょっと大げさだが、「みんなが」とか「多くの方々が」とか「使用者の大多数が」とか、そういう形容詞に惑わされずに、物差し(数値)で考えれば騙されたりしないよ、という主旨の本だ。

 しかし、本書の主張は科学的ではない。これは、嘘が書いてあるという意味ではなく、森氏の個人的な見解・思いを元に述べられているという意味である。
 本書では「科学的に考えないと損しますよ」ということが統計的に示されているわけではないし、そもそもそういう統計を作ること自体がほとんど無理だろう。森氏の見解を「非」科学的に伝えた本なのである。
 科学の重要性を伝えるのに非科学的な主張にならざるを得ないのはちょっと皮肉な感じもするが、その分、科学に抵抗感のある人にとっても読みやすいものになっている。さすがは理系小説家だ。本書を書くのに、森氏よりも適した人は、少なくともいまの日本にはいないだろう。

 非科学的に書かれた科学啓蒙書。科学に抵抗のある人にこそ読んでほしい。




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【読書メモ】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)

 2020年のベストセラーをようやく読んだ。もっと早く読んでおくべきだった…。   スマホがどれだけ脳をハックしているかを、エビデンスと人類進化の観点から裏付けて分かりやすく解説。これは説得力がある。   スマホを持っている人は、必ず読んでおくべきだ。とくに、子どもを持っている人...