私の場合、妻が通訳を職業にしたいと考えているので、私も本書に興味を持った次第。通訳の醍醐味を感じ取ることができ、妻の気持ちも少しは分かった気がする(「そんなんと違うわよ」と言われそうな気もするけど…)。
タイトルの『不実な美女か貞淑な醜女か』は第3章のタイトルなのだが、これを本のタイトルにもってくるとは…大胆な試みであることは認めるが、ちょっといかがなものか。
解説すると、これは訳の「質」を表している。「不実な美女」というのは、日本語としては整っているが原語の意味を十分には伝えていない訳のことで、貞淑な醜女というのは、日本語としては違和感があるが原語の意味を余さず伝えている訳のことである。
さてどちらの訳が好ましいのか、ということが書かれているのが第3章なのだ。分かっていただけただろうか。
本書は全5章からなっている。1章は通訳と翻訳の共通点、2章では逆に通訳と翻訳の相違点が述べられている。私は職業柄、翻訳には直接かかわることもあるので、興味深く読むことができた。当たり前だが「時間」という制約が大きな相違点だそうだ。
3章は上にも述べたように、訳の質について語った章である。原語に忠実なのが良訳なのか、それとも日本語としてこなれているのが良薬なのか、結論は本書を読んで確かめてほしい。
4章は「初めに文脈ありき」というタイトル。通訳の真髄を語った章だと言えるだろう。原語を介したコミュニケーションというのは、詰まるところ文脈のやりとりであるということがよく分かる。自動翻訳がなかなか使い物にならないわけだ。
最後の5章は「コミュニケーションという名の神に仕えて」。米原さんの通訳、言語、さらには人生観が述べられた章だ。私が最も興味深く読んだのもこの章だった。特に、外国語よりも先に母国語を磨く必要がある、という話には「やはりそうですか」と納得した。これは、最近でこそ当たり前のようになっているが、本書が出た頃(十数年前)は、バイリンガル教育が流行し、なるべく小さい頃からネイティブの発音に触れさせるほうがよいなどと言われていた時期だ。やはり言語のプロは真実を見極めていたということか。
通訳に興味のある方はもちろん、言語やコミュニケーションについて学びたい方にも是非読んでもらいたい一冊だ。
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