原発を舞台にしたスパイ小説。高村さん独特の、薄暗い雰囲気に満ちたストーリーである。『リヴィエラを撃て』(こちらもお薦め)に通じるところがある。
ソ連のスパイである島田という男が主人公。その島田も含め、主な登場人物たちはみな、腹の中に虚無を抱え、脳ミソの中もドロドロしている。こういう人物たちを描くことにかけては、高村さんの右に出る作家はいない(本ブログ比)。今回もそういった、重たく濁った精神の世界を堪能した。
一度はスパイから足を洗ったはずなのに、日本、アメリカ、ソ連、北朝鮮が入り交じるスパイ情報戦の渦中に再び舞い戻った島田。日本海(若狭湾)に設立された原発を軸に話は進む。
序盤は原発襲撃プランを巡る情報戦が繰り広げられ、そのカギとなるカードを巡る駆け引きが行われる。プランの詳細は何か、そしてプランは誰の手へ収まるのか、ワクワク・ドキドキの展開である。
しかし上巻の途中で、プランの内容や、その周辺事情がほぼ明らかになる。
「あれ、まだページは残っているのに…(こういうのが分かってしまうのが、紙の本の悲しいところですな)」
と思いつつ読み進めると、下巻の後半からは急展開。
「なるほど、上巻はこういう布石だったのか」
と冷静に分析できるのも、すべて読み終えてしまったからである。読んでいる途中は、残りのページ数など忘れてしまい、一気にラストにたどり着いた。
この時期(2012年1月)に本書を読んだのは、もちろん昨年の福島原発の事故の影響がある。高村さんにとっては、震災の影響で本書が読まれるのは不本意かもしれない。しかし私は、本書を読んで、改めて原子力の危険を感じ取ることができた。
昨年の福島原発の事故のきっかけは地震だった。おそらくこれからは、地震や津波でメルトダウンする原発はなくなるのだろう。しかし、それで安全なのだろうか。原発を襲うのは自然災害とは限らない。本書にも出てくるように、ミサイル一発飛んできたらジエンドである。ミサイルは大げさとしても、予期せぬミスやテロ行為に対して、100%安全と言い切れるのだろうか。
そんなことはあり得ないということを、改めてこの小説は伝えたいのだと思う。だって、100%安全なら、原発はお台場や大阪湾にあるはずだもんねぇ。
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