2012年11月1日木曜日

書評 大栗博司『重力とは何か ―アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る―』(幻冬舎新書)

 分かりやすいと評判の本書をついに読んだ。なるほど確かに分かりやすい。
 私たちを地球につなぎ止めている「重力」を、量子力学や相対論などの知識がない人に向けて、ここまでかみ砕いて説明された本がついに出た。

 重力が「ある」ということは、皆さんご存じだろう。しかし「ある」と言われても納得いかない人も多いのではないか。「なぜ、どのような仕組みで重力が働くのかを説明してくれよ」というわけだ。

 重力というと、まず思い浮かべるのはニュートンだろう。例の、リンゴが木から落ちるのを見て重力の存在を思いついたという話だ。それはそれで間違いではないのだけれど、ニュートンが見つけたのは
「重力というものが『ある』」
という事実である。そしてニュートンは、その重力がどのくらいの大きさなのかを解き明かした(万有引力の法則)。ここまでは多くの人が知っていることだ。
 ところが「重力はなぜ働くのか、どういう仕組みで働くのか」ということは、まだはっきりとは分かっていない。

 しかし、それが最近明らかになりつつあるらしい。それを分かりやすく説明したのが本書である。
 重力の解明には、アインシュタインの考え出した「相対論」と、それと同時代に発展した理論である「量子力学」の融合が必要なのだそうだ。
 さらに、重力にはそれを伝える「粒子」があるらしい。想像もつかないことだが、小さな小さな「粒」が重力を伝えているのだ。その粒を「重力波」というのだが、その重力波を観測し、たしかにそういう粒があることを証明するには、天文学の力を借りねばならない。2002年にノーベル賞を受賞した小柴先生の研究(カミオカンデ)を想像してもらえればよいだろう。
 それらの先に(それらと並行して)「重力の解明」があるのだそうだ。

 以上のようなことをきちんと理解するには、もちろん専門的な勉強が必要だろう。それを
「高校でも物理ってチンプンカンプンだったよね」
という人にも分かるように説明してくれたのが本書である。
 このところ『宇宙は何でできているか』や『宇宙で最初の星はどうやって生まれたのか』など、この分野の分かりやすい名著が続けて刊行されている。ここまで何冊も続けば、偶然では片付けられない。おそらく、この研究分野の文化によるところが大きいのだと思う。
 従来は「私は科学者なのだから『ウソ』は書けない」という理由で、かみ砕いて書くことができない著者が多かったのだろう。しかし、本書を含めた上記の本の著者たちはそのハードルを乗り越え
「多少『ウソ』は混じるかもしれないが、普通の人に分かりやすく伝えるには、こういう比喩や表現でよい」
という姿勢で執筆されているように思う。たいへんありがたい話だ。他の分野の研究者も、是非続いていってもらいたい。




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