「われわれが住む宇宙は、なぜこのような宇宙なのだろうか」
この根源的とも言える問いに対する最新の科学的知見を、一般向け科学書翻訳の第一人者が易しく解きほぐした本。宇宙論を歴史に沿って振り返ることにより、科学に疎い素人にも、宇宙論のエッセンスがスイスイと理解できる。これは名著だ。
古来、宇宙の成り立ちに関する考察は、哲学や宗教に属していた。しかし、原子の存在が証明され、20世紀になって量子論や素粒子論が確立されると、その問題は科学の範疇に入ってきた。
その結果、「われわれが存在するように宇宙ができた」のではなく「まず宇宙があり、その結果として、われわれが存在する」という考えが当然のこととして受け入れられるようになった。「宇宙がこのような宇宙である」のには、何か必然があるはずだ、というわけである。しかし、数々の天才たちがいくら知恵を絞っても、「宇宙はこのような宇宙でなければならない」という理由が見つからない。
そこに出てきたのが、本書の副題にもある「人間原理」である。たいへん大雑把に言うと「現にわれわれが存在するのだから、宇宙はわれわれが存在するようにできているはずだ」という考え方である。
これには、多くの科学者が反発した。「科学に神を持ち込んではいけない」という拒否反応である。しかし驚くことに、現在ではこの「人間原理」はおおむね認められているのだという。その経緯や理由を、われわれにも分かるように示してくれたのが本書である。
宇宙論の歴史的な流れを説明する、すなわち科学史的な観点から説明することにより、難しい内容をなるべく避けて宇宙論を解説することに成功している。数々の一般科学書を翻訳した青木氏ならではの構想であり、それが見事にハマッた。ブラボー。
宇宙論や素粒子論を易しく説明した本が、このところ立て続けに出版されているが、その頂点に立つ本だと思う。
「これで分からなければ諦めなさい」
というのは言い過ぎかもしれないが、一般読者が現在の宇宙論を概観するのにこれ以上適した本は今のところないだろう。
宇宙を知りたければ、まずはこれを読むべし。
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