2015年2月19日木曜日

【書評】ダンカン・ワッツ『偶然の科学』(ハヤカワ文庫)

世間がいかに結果論に満ちているかを「これもでもかっ」と示した本


 たとえば企業の株価。現在、Googleの株価は上場時の6~7倍程度だそうだ。Googleのような優良企業の株価がこの程度上昇することは自明に思える。どうして株を買っておかなかったのだろう?
 たとえばテレビの人気番組。「半沢直樹」をドラマ化すれば面白いものができるに決まっているじゃないか。どうしてウチの局は権利を取らなかったのだろう?
 たとえばリーマンショック。サブプライムローンなどという危ない債権が破綻しない訳がないのに、どうしてバブル崩壊を予想できなかったのだろう?
 これらの疑問に答えを与えてくれるのが本書である。その答えとはズバリ
「そんなの予想できない」
なのだ。「何じゃそりゃ」と思う事なかれ。

 Googleはたしかに優良企業なのだが、それだけが成功の要因ではない。優良だが成功しない企業も山のようにあるのだ。半沢直樹はたしかに面白いが、それだけが高視聴率の要因ではない。面白いが低視聴率の番組も山のようにあるのだ。
 成功と失敗の分かれ道は、優良か不良かで決まるのではなく、むしろ「偶然」の要素が大きいと本書は断ずる。成功するのも偶然、失敗するのも偶然なのだから、そんなの予想できない、ということなのだ。

 しかしわれわれは、Googleや半沢直樹の成功は「必然」であったと考えたくなる。そしてその必然の要因を分析し、自らの成功につなげようとする。
 ところが本書により、世間に満ちあふれているこれらの分析が、いかに結果論に過ぎないかが次々と示される。たとえば、ある商品が流行した理由を分析する場合に、その分析のほとんどは
「その商品が流行したのは、その商品が流行する要素を持っていたからだ」
という循環論法に陥っているのだ。言い換えれば「後付けはいくらでもできる」ということである。

「そうなると思っていたんだよ~」
ということも多く、先を読むのが得意な人は、本書を読んで自らの「予想」を顧みてほしい。(矛盾した言い方だが)自分の予想がいかに「後付け」であるかが分かるだろう。




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