家庭でのしつけや教育は、子どもにほとんど影響を与えない
たまたま『赤の女王』と続けて読んだこともあり、深く納得。われわれヒトは、思っている以上に遺伝子の道具に過ぎないのだろう。
本書は「言ってはいけない」というよりも「とても言いづらい」真実を橘氏がズバリと言い切ったものである。それもいち個人の意見というわけではなく、文献が引用されており、科学的なエビデンスが示されているため、説得力がある。
橘氏の公式サイトでまえがきとあとがきが公開されているので紹介しておく。これを読めば本書の概要は掴めるだろう。
まえがき
あとがき
本書には耳障りなことしか書かれていない。橘氏はなぜ耳障りな主張をわざわざ本に著したのか。それは
「人の持って生まれたものには、知能や性別や容姿も含めて大きな差がある。だから差別してよいという話ではない。全く逆で、差があることを認めて共存していこうではないか」
ということなのだ。男と女を、白人と黒人を、美男子と醜男を、平等に扱うことは逆に差別だという意見もあながち間違ってはいないのだろう。
本書の橘氏の主張を支えているのが行動遺伝学である。知能や性格は、どの程度が遺伝により、どの程度が環境によるのかを調べる学問だ。この分野の研究が進み、従来考えられてきたよりもはるかに遺伝の影響が大きいことが分かってきた。さらに、環境についても、家庭環境よりも家庭外環境のほうが人格形成に大きく影響を与えることも分かってきた。
そして「なぜそうなのか」の説明には性淘汰が大きくかかわってくる。これが先に『赤の女王』をあげた理由である。ヒトの遺伝子は現在の核家族生活ではなく、旧石器時代の血縁的集団生活に最適化されているのだ。
最後に、本書の感想で「よく言ってくれた」という趣旨のものをたくさん見かけるが、これには注意が必要だ。本書の主張はおそらく事実だが、その事実を差別の根拠にしてはならない。
【主な内容】
本書は三つのパートに分かれている。
I 努力は遺伝に勝てないのか
II あまりに残酷な「美貌格差」
III 子育てや教育は子どもの成長に関係ない
Iは、ほとんどの能力は持って生まれた遺伝子によってほぼ決まるというものだ。「努力は遺伝に勝てない」と書くと挑発的だが、努力は無駄だと書かれているわけではない。むしろ
「努力できるということ自体が持って生まれたもの(遺伝)だ」
という論調である。
IIは、容姿の良し悪しがいかに大きな影響をもつかについて書かれている。美人が得しているのは暗黙の了解(公然の事実?)だろうが、それを生涯年収や夫の年収などの数字ではっきり示す。
また、容姿が悪くて損をするのは女よりも男なのだそうだ。
IIIは最もショッキングだった。子育てに親のしつけや家庭環境はほとんど影響を与えないというのだ。
「それは、さすがに嘘だろう」
と思う人はこの章だけでも読んでほしい。家庭環境は子どもにほとんど影響せず、家庭外の環境が子どもの人格を作るという説に、耳を傾けざるを得ないだろう。
たしかに言われてみれば、自分自身の生い立ちを顧みても、自分の子どもたちの成長を見ても、家庭外の環境が人格形成に大きくかかわっているように思えなくもない。もしその通りだとするなら、親のすべきことは
「子どもをよりよい環境においてやる」
ということに尽きることになる。
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