2017年2月2日木曜日

【書評】マット・リドレー『赤の女王─性と人の進化─』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

硬派な科学読み物だが、意外にもモテるためのヒントが満載


 ダーウィンが進化という概念を発表し、メンデルが遺伝という現象を実験的に証明し、ワトソンとクリックが遺伝子の実体がDNAであることを示し、ヒトも動物の一種だということは誰も疑わなくなった。
 しかし、ヒトは進化の過程で脳を巨大化させ、理性や言語を持つようになったので、学習によって多くを学んで自らの行動を制御する。すなわち、本能を抑えて生活している。この点で、ヒトは他の動物とは一線を画した存在であると考えられてきた。理性を持つヒトを、理性を持たない動物と同じにはできないというわけだ。
 ところが最近は、ヒトもほとんど本能的に生きている動物であり、社会や文化から学習した、後天的に得た知識に則って行動しているわけではないことが分かってきた。あえて言うなら、ヒトとは「学習するという本能を持った動物」なのであり、学習(後天的)と本能(先天的)とはどちらかに分けられるものではなく、表裏一体なのだ。

 その本能を形成するのに大きな役割を果たしてきたのが「性淘汰」であるというのが本書の主張だ。ダーウィンは適者生存という概念を主張し、最も適した個体の性質が受け継がれていくと考えた。しかし、それでは説明のできないことがたくさんある。その代表例が雄のクジャクの羽である。生存するためにはおよそ無駄で邪魔なばかりか、敵に見つかりやすくなる、あの派手な羽。なぜクジャクの羽があのように派手に進化したのだろうか。
 性淘汰の考えを用いると、これがうまく説明できる。何かのきっかけで雌が派手な羽の雄を好むようになると、派手な羽の雄が子をもうけるチャンスが増える。その結果、派手な羽の遺伝子がどんどん進化する。しかし
「でも、派手な羽が生存に不利なら、生存に有利な特徴(たとえば足が速いとか)を持つ雄を選ぶ雌が出てきて、結局はそちらが勝つのでは?」
という疑問が湧いてくる。それに対しては、次のように説明される。たとえ足が速い雄を選んだ雌がいたとしても、その子ども(雄)の羽はおそらくそれほど派手ではない。その結果、子どもはよい雌に選ばれず、よい子をもうけることができない。よって足の速い遺伝子よりも、派手な羽の遺伝子のほうがどんどん進化していく、というわけだ。
 以上の説明には穴も多いが、本書ではさらに強固に論陣を張っている。納得いかない方は本書を読んでほしい。

 こんな調子で、性淘汰がヒトのさまざまな行動や好みを形成してきたことが説明される。40代の女性よりも20代の女性のほうがモテるのはなぜか。不倫はなぜ万国共通なのか。モデルはなぜ「ボン、キュッ、ボン」なのか。カローラに乗るよりもベンツに乗るほうがなぜ女性を呼び止められる確率が高いのか。なるほど納得だ。

 科学読み物としてももちろん面白いのだが、もう一つ特徴はモテるためのヒントが満載されていること。長い進化の過程で形成された本能を刺激されれば、あの子もあの人も落ちるに違いない(?)。私の場合、この歳になってモテモテになっても困るんだけど…。



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