2012年1月31日火曜日

書評 酒井邦嘉『科学者という仕事 独創性はどのように生まれるか』(中公新書)

 物理学科出身で、現在は脳科学の研究者である酒井さんが、科学者、研究者とはどのような仕事なのか、その心構えを中心に書いた本。酒井さんは大学に籍をおいているので、ここでいう科学者とは、大学で研究をしている人がおもに念頭に置かれている。とはいえ、企業で研究している人にも、もちろん参考になる。
 また、これから科学者への道を歩もうとする若い人には、特に是非読んでおいてもらいたい本だ。

 本書は全8章からなる。それぞれの章の冒頭には著名な科学者の言葉が引用されており、その科学者の思想が簡単に述べられている。アインシュタイン、ニュートンに始まり、マリー・キュリー(キュリー夫人)で終わる、この八つの冒頭部分だけを読んでも十分に面白いだろう。
 ここに、全8章のタイトルと、冒頭に出てくる科学者の名前を挙げておこう。

第1章 科学研究のフィロソフィー―知るより分かる(アルバート・アインシュタイン)
第2章 模倣から創造へ―科学に王道なし(アイザック・ニュートン卿)
第3章 研究者のフィロソフィー―いかに「個」を磨くか(ノーム・チョムスキー)
第4章 研究のセンス―不思議への挑戦(朝永振一郎)
第5章 発表のセンス―伝える力(寺田寅彦)
第6章 研究の倫理―フェアプレーとは(チャールズ・ロバート・ダーウィン)
第7章 研究と教育のディレンマ―研究者を育む(サンチァゴ・ラモン・イ・カハール)
第8章 科学者の社会貢献―進歩を支える人達(マリー・スクロドフスカ・キュリー)

 ひとくちに「天才」と語られる彼らだが、本書を読むと、その裏には確固たる信念、すなわち折れない心を持っていることがわかる。ただしこれは、「頭が固い」「頑固」という性質とはまた別のものだ。
 また、目次を見てもわかるように、本書は研究者の日常を書いた本でもなければ、研究のHow toを語った本でもない。書かれているのは、研究者の内側、心のあり方、もつべき思想、である。
 科学研究とはおおよそ関係のない暮らしをしている人にも、そういった心構えを知ることは、大いに刺激になるだろう。私もその一人である。私も含め、ついつい日常を漫然と過ごしてしまう多くの凡人と、何かを成し遂げる天才との違いは何なのか。それを教えてくれる本だ。

 特にこれから人生を形成していく若い人に向けて、本書からチョムスキーの言葉を引用して締めくくりたい。

もしあなたが孤立して、世の中の誰とも全く違っているとしたら、自分の気が変になったか、どうかしたに違いないと思い始めるでしょう。あなたが他の人々と何か違ったことを言っているという事実に負けないためには、強い自我が必要です。

「孤立している」と思うことすらなくなってしまったオッサンには、たいそう耳の痛い言葉である。


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