2014年6月3日火曜日

書評 スティーヴ・ハミルトン『解錠師』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 話すことのできなくなった少年は、解錠師(金庫破り)となった。彼はなぜ、そしてどのようにして解錠師となったのか。
 心に傷を負った少年の生き様をベースに、生い立ちの謎、金庫破りのスリル、そして少年の恋心が見事に絡まり合った一冊。

 二つの時系列の話を最後に交わらせてすべてを明らかにするという、よくある手法のミステリーなのだが、その中身はありきたりではない。前半部、後半部とも、マイクの影のある人生を淡々と描き出すのだが、この淡々とした筆致が物語の雰囲気とマッチして、独特の世界観を構成している。翻訳本にありがちな冗長な記述もなく、どんどんのめり込んでしまった。
 こう書いてしまうと、静かなミステリーのように聞こえてしまうが、そうではない。特に後半部の金庫破りのストーリーはハラハラドキドキの連続。スリル満点だ。

 マイクの行動の原動力(モチベーション)が恋というのがよかった。私がもっと若ければマイクにさらに感情移入できたのだろうが、恋から離れてしまったオッサンには、マイクは息子のように見えてしまった。
 ちなみに私の娘(小1)は、ついこの前まで恋(love)と鯉(carp)の区別がついていなかった。

<粗筋>
 ある事件をきっかけに、言葉を話せなくなったマイク。みんな同情してくれるけれど、誰も気持ちを分かってくれない。そんな彼が、ある少女に恋をする。自分の気持ちを理解してくれる存在を、初めて見つけたのだ。
 物語は、マイクが言葉を失ってから成人するまでの期間と、長じて金庫破りとして闇の世界を生きる期間とが、並行して語られる。前半部では、話せないながらも友人を作り、絵の才能に目覚め、ついに自分の気持ちを分かってくれる少女に出会って恋をする。後半部では、アメリカ中を転々とし、闇の世界で天才金庫破りとして懸命に生きる姿が描かれる。
 なぜ、どのようにしてマイクは金庫破りとなったのか。そして、金庫破りとしてのマイクの波瀾万丈な生き様は、どこに帰着するのか。二つのストーリーが重なるとき、すべてがつながる。




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