2014年7月6日日曜日

書評 佐藤健太郎『炭素文明論―「元素の王者」が歴史を動かす―』(新潮社)

炭素が人類の歴史にいかに深くかかわってきたか。それを、豊富な歴史トリビアをまじえながら軽やかに綴った一冊。「へぇ」連発まちがいなし。


 化学の研究者である佐藤氏が、炭素化合物が人類にどれほど深くかかわってきたかを語り尽くした一冊。かといって堅苦しい内容ではなく、化学を知らない人にも興味深く読める。佐藤氏の(特に歴史に関する)うんちくが散りばめられており、理系の知識がなくてもスイスイ読んでいけるのだ。
 取り上げられる炭素化合物は、デンプン、砂糖、香辛料、うま味、ニコチン、カフェイン、尿酸、アルコール(お酒)、ニトロ(爆弾)、アンモニア(肥料)、石油である。いずれも、もしそれがなければ人類の歴史が大きく変わっていたに違いない物質たちである。これらの化合物の化学的性質や、それらがどのうように人類の歴史を変えてきたかが分かりやすく示されている。
 これらの物質はアンモニアを除いて炭素を含んでおり、ほとんどは炭素が主要構成成分なのだ。またヒトの体そのものにも、多くの炭素が含まれているのはご存じだろう。炭素はあらゆる物質や生命の基本なのだ。

 さらに、佐藤氏の多方面にわたる知識が散りばめられているため、理系的な内容一辺倒に陥らない。たとえば尿酸の章では、ルネサンス時代のメディチ家の家長が、三代にわたって痛風に苦しめられたなどという小話が出てくる。ひと昔前に流行した「トリビアの泉」ではないが
「へぇ」
を連発したくなる。特に歴史小話がたくさん紹介されており、佐藤氏が歴史好きであることが垣間見えた。

 化学や化学物質に興味のある文系の人にはお薦めの一冊。特に「化学」という言葉に悪いイメージを持っている人に読んでもらいたい。



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