2014年7月9日水曜日

書評 冲方丁『光圀伝』(角川書店)

「黄門様」のイメージがひっくり返った。


 水戸黄門の愛称(?)でおなじみの徳川光圀の一生を描いた大作。テレビドラマの影響で
「隠居した老人」
というイメージが強いが、よく考えてみればあれは隠居後の姿であり、若かりし頃のことはよく知らなかった。その姿を教えてくれるのが本書である。
 本書を読んで「隠居した老人」のイメージは一変した。こんな骨太で熱い人生を送った人だったとは知らなんだ。

 光圀は徳川家康の孫であり、御三家の一つである水戸徳川家の二代目なのだが、三男なのだ。なぜ兄を差し置いて光圀が世継ぎとなったのか。光圀はこの大きな悩みを抱えたまま青年期を送る。長じて藩主となってからは、学問を推奨し、歴史書の編纂などを押し進める。また、幕府のご意見番として一目置かれる存在にもなる。
 若かりし頃は傾奇者(かぶきもの)としてヤンチャを繰り返した光圀が、たくさんの同志を得て成長し、強烈な個性として結晶していく様子は読み応えたっぷりだ。

 冲方氏の代表作『天地明察』(こちらもお勧め)の書評では「見込まれ力」について書いた。上司、先輩、友人、同僚などに見込まれて前進していく主人公(光圀伝にも登場する渋川春海)の姿に共感を覚えたのだ。
 本書でも、光圀はたぐいまれな「見込まれ力」を発揮して人生を切り拓いていく。しかしそれに留まらず、後半生では大名として、父として、先達として、さまざまな人物たちを見込み、引っ張り上げ、後世を託す。人の上に立つという重責を担うには、この「見込み力」が必須なのだ。
 名選手は名監督ならずという言葉もあるように、見込み力と見込まれ力を兼備するのは難しい。光圀は、まさにこの二つを併せもつ名君だったのだろう。私も40歳を過ぎ、そろそろ見込み力を研鑽する時期になってきたのかもしれない。光圀を見習っていきたいものだ。

 うがった見方かもしれないが、現在の団塊の世代の人たちは、どうも「人を見込んで抜擢し、後世を託す」という作業を怠っているように見える。そのような人たちばかりではないのだろうが、そういう傾向が強いような…。これは団塊ジュニア世代のひがみなのだろうか。



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