2012年10月15日月曜日

書評 橘玲『亜玖夢博士のマインドサイエンス入門』(文春文庫)

『亜玖夢博士の経済入門』に続く亜玖夢博士シリーズ第2弾。文庫化を待っていた。

 このシリーズは、新宿歌舞伎町の一室に事務所を構える亜玖夢博士が
「相談無料。地獄を見たら亜玖夢へ」
のチラシを見てやってくる依頼者にアドバイスを授けるというかたちで、さまざまな社会科学の知識を解説するという構成になっている。第1弾は経済学がテーマだったのだが、この第2弾ではマインドサイエンスを取り上げている。

 本シリーズが画期的なのは、小説仕立てになっていることだ。亜玖夢博士を初めとする荒唐無稽な架空の人物たちが、あれやこれやと大騒動を繰り広げる。その大騒動の中にマインドサイエンスの知識が散りばめられているのだ。
 ストーリー仕立てで、さまざまな知識や概念を解説するという試みは数多くなされてきたのだろうが、私が知る限り、本書はその成功例の筆頭である。平凡な言い方になるが
「とてもよくできている」
という言葉を使いたくなる。

 マインドサイエンスといってもピンとこないかもしれないが、章立てを見ると内容は分かっていただけるだろう。認知心理学、進化心理学、超心理学、洗脳、人工生命の5章立てとなっている。

 たとえば第1章の認知心理学では、引きこもりの少年が依頼者である。この少年は自尊心が高く、自分の自分に対する評価(自分の知性に自信がある)と、社会の自分に対する評価(引きこもり)のギャップに不具合がある。さて、亜玖夢博士はそれをすぐに見切るのだが、その解決法が…。
 という具合に、各章にヘンテコリンな依頼者が登場し、亜玖夢博士やその助手たちとドタバタを繰り広げる。最後には人類滅亡の危機にまで事態が発展するという荒唐無稽っぷりなのだが、決してストーリーは陳腐ではない。マインドサイエンスを説明するために、面白くないストーリーを無理矢理組み立てているわけではないのだ。ブラックコメディとでもいうような、ブラックでシニカルなドタバタ劇は、マインドサイエンスを抜きにしても面白い。ストーリーとしては、第1弾の「経済学」よりも第2弾の本書のほうがかなりレベルが高かったと思う。
 ぜひ、第3弾を期待したい。




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