子どもの「書く力を伸ばす」というよりも、子どもに「書くことを好きにさせる」ための本だ。
本書の特徴は「子どもの状態」を説明するのに、多くのページを割いていること。全6章のうちの3章が、ほぼこれにあてられている。いわゆるhow toに近いのは、最後の第6章のみだ。
「子どもの状態」とは、小学生がどの程度の語彙や表現力を持ち、どの程度の書く力を持っているかということ。子どもにはそれぞれの発達に応じた段階があり、いきなり大人のような文章が書けるわけではないということが、繰り返し述べられる。親から見ると、ついつい大人を基準にしてしまうが、それを子どもに当てはめてはいけないのだ。
言われてみれば当たり前だ。しかしわが子の作文を目にすると、ついついあれやこれや言いたくなってしまう。そこをぐっとこらえて「これでいいのだ」と子どもにも自分にも言い聞かせることにより、子どもは作文が好きになり、自然に伸びていくのである。
「好きこそものの上手なれ」
という諺を思い出させてもらった。
本書では「上手な作文を書くためのコツ」や「こういうことに気をつけて書こう」などの「how to」にはほとんど触れられていない。そういう意味では書名には偽りありかもしれないが(笑)、期待は裏切らない。
「子どもに、文章を上手に書けるようになってほしい」
という親の願いは、本書によってかなえられるだろう。
ところが、本書を読むのはつらかった。実はわが家では2年前にちょっとした出来事があり、それが本書の献本を申し込んだ理由の一つでもあった。
2年前、娘は小学1年生。夏休みに初めての読書感想文に取り組んだ。長い文章を書いたり原稿用紙を使ったりするのは初めてだったが、何とか書き終えた。そこでわれわれ両親のとった行動は、最悪のもの。娘の初めての作文にダメ出しをしたのだ。
「これは作文とは言えない」
「あらすじを追っているだけで感想がない」
「わたしはもっと上手だった」
などなど、「決してやってはいけません」の見本みたいな対応をしてしまった…。
この出来事が頭に残っていたこともあり、本書の献本を申し込んだ。首尾よく当選させてもらったのだが…、読んでいるときは「当たらなきゃよかったのに」と思うこともあった。やはりあのときの対応は間違っていたのだ。娘よ、すみませんでした。
娘は大の読書家で、暇があれば本を読んでいるほどの本好きなのだが、そのわりに文章を書こうとしないのは、やはりこのときのことが原体験となっているのだろう。「そうかもしれない」とは思っていたが、本書を読んで確信に変わった。子どものやる気や才能を摘んでしまったことを突きつけられているようで、本書を読むのはつらかった。
救われたのは高濱氏の「おわりに」を読んだとき。高濱氏もずっと書くことにコンプレックスがあったのだが、中学生のときにきっかけがあって書く気になり、書くのが苦にならなくなったのだという。わが家も、娘の「書く気」が出てくるのを待つことにしよう。
幸いなことに、小学校の担任の先生の方針もあって、娘は少しずつ「書く気」を取り戻しつつあるように思う。去年は書かなかった読書感想文を、今年は「書こうかな」と言っている。今度は娘の「書く気」を大事にしてあげたい。
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