2012年1月3日火曜日

書評 東野圭吾『片思い』(文春文庫)

 東野さんの約10年前の作品。600ページを超える大作だ。
 テーマは性別。男とは何か、女とは何か、性別は染色体だけで決まるのか、男と女は裏と表の関係なのか、性同一性障害とはどういう状態なのか。そういった、性にまつわるさまざまなテーマを散りばめつつ、ハラハラ・ドキドキのミステリーが展開される。

 主人公の哲朗は、学生時代は名クオーターバックとして活躍していた。その後、アメフト部のマネージャーと結婚し、二人で生活を送っていたところ、アメフト部のもう一人のマネージャーだった美月と再会する。しかし、美月は男の姿をしており、しかも殺人を犯したと告げる。
 その殺人事件を追ううち、次々と明らかになるジェンダーの世界。そして、絡み合うアメフト部時代の仲間たち。殺人犯は誰なのか、動機は何なのか、そしてタイトルの片思いとは…。
 というのが粗筋。

 当時、まだそれほど一般的ではなかったと思われる性同一性障害を主題に扱う大胆さは、東野さんならではだ。(どういうテーマでもそういう面はあるのだろうが)生半可な知識で書くと、とんでもない非難を受けそうなテーマである。また、偏った意見の持ち主も多そうな話題だし、いろいろややこしい中傷を受けるかもしれない。そんな微妙なテーマを堂々と書ききる手腕には、いつもながら脱帽である。
 とはいえ(知識のない私には断言はできないが)、本書で書かれたジェンダーの世界がどこまで真実を表しているのか。ややステレオタイプな気がしないでもない。しかし、10年以上前に書かれたということを考えると、十分に衝撃的な内容だったのかもしれない。

 二人の子を育てているイクメンとしては、女性の社会進出を進めたいなら、男性がもっと家庭に進出しやすくなる状況も並行して整えていかないと無理なんじゃないかなあ、と思うのでした。



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